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心霊

Nさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

賃貸の一軒家に引っ越した結果
長編 2022/12/17 23:03 16,221view
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クローゼットの中に居たあの赤ちゃんは何だったんだ。
あれは生きた赤ちゃんだったのだろうか。
まだ二階に居るのだろうか。
警察に通報するべきだろうか。
妻は俺が仕事をしている間、あの赤ちゃんに何かされたのだろうか。

俺は頭の整理が追い付かずに一晩中ソファに座り込んで頭を抱えていた。
勿論、赤ん坊のご飯や身の回りの事はしたが、無心というか、放心状態でそつなくこなしていたような感じだった。
因みに、一度勇気を振り絞って寝室を確認してみたんだが、その時にはあの赤ちゃんの姿は無かった。
無かったのだが、この二日は謎の泣き声に随分と悩まされた。

日曜日、妻が帰ってくると、俺は精神的に参っていたのが一気に解放された気分だった。
妻はただいまと同時に「何かやつれてない?」と苦笑してたが、俺は本当に自分でもやつれたと自覚しているほど疲れていた。

クローゼットの中で赤ちゃんを見た晩から、二階は厳重に封印している。
寝室の前に一人用のソファを置いて隔てているだけなんだが、それでも昨晩なんかはずっと赤ちゃんの泣き声が聞こえていたので寝付けなかった。

そんな事を惜しげもなく妻に話すと、妻は「やっぱり私の気のせいじゃなかったんだ…」と表情を歪めていた。
何でも、妻も育児中、日増しに赤ん坊の泣き声が聞こえるようになると我が子に変化が無いことからおかしいとは思ってたらしいのだが、だんだんと泣き声の頻度が増えていくと、今度は赤ちゃんの幻覚が見えたりしたそうだ。
中でも我が子を抱いていると思ったら違う赤ちゃんを抱いてて困惑した事もあったらしく、夢の中で『ままぁ』と抱き付かれたのが怖くて眠れない夜もあったとか。

それを俺に隠してたのは妻自身も自分が育児ノイローゼでおかしくなってると勘違いしてたのもあるそうだが、一番は新生活が始まったばかりなのに俺に迷惑をかけたくなかったそうだ。
俺としては話して欲しかったところだが、実際にあの赤ちゃんを見ていなければ育児ノイローゼと疑っても仕方がないと思い、俺は妻に謝った。

そして、俺はこの一軒家を紹介してくれた知り合いにコンタクトを取る事にした。
この怪奇現象の詳細を包み隠さず話して、ここが事故物件ではないかと聞き出そうとしたのだが、その知り合いは『え?事故物件じゃないよ。そもそもそこに住んでた夫婦は転勤で引っ越しただけだし』と淡々と返して来た。

じゃあ何で赤ちゃんの幽霊が出るんだと問い詰めれば、その知り合いは『いや、俺に言われても…。てか幽霊って』と分かりやすく困惑していた。
まあ、俺も突然紹介した家に幽霊が出たからどうにかしろなんてクレームが来たらどうしようのないのだが。

『…うーん、とりあえずお祓い…とかしてもらうとか』

「お祓いか…」

普段、幽霊の存在は信じない俺だったが、さすがにこんな体験をしてしまうと素直にお寺でお祓いをしてもらう事に決めた。
妻に説明すれば、妻も「それでおさまるなら…」と信じているのかいないのかどっちつかずの表情で頷いてくれた。

そして、二階を封印してから次の休日に俺達は予約したお寺に向かった。
これまでの体験談を住職に話せば、住職は「ふむふむ」なんて小難しい顔を浮かべて頷いていたが、本当にこの住職で大丈夫なのだろうかと俺は心配になってきた。

それで、住職はお祓いと言うよりは供養してあげた方がいいと言い出した。
「え?」と間の抜けた返事をした俺に、住職は「たぶん、赤ちゃんはあなたたち家族が幸せそうだったからやってきたんでしょう」と少し悲しそうに話してくれた。
これは後で知り合いに確認して分かった事なんだが、あの一軒家に元々住んでた夫婦は流産した事があるそうだ。
今では新しくできた子供と三人家族で暮らしているらしいのだが、住職曰く、その流産した水子の霊があの一軒家に取り残されている状態との事。
特に害の無い霊らしいが、偶々俺達のような新生児を迎えた家族が引っ越した事がその水子の霊を呼び覚ますきっかけとなった。
つまり、あの赤ちゃんの霊は家族の輪に入りたくて俺達の前に姿を現したのではと言われた。

7/8
コメント(1)
  • いや怖いよ

    2022/12/20/10:07

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