老人ホームの幽霊
投稿者:件の首 (54)
この有料老人ホームの夜勤は通常ワンオペだったが、その日は新人指導のため、2人態勢だった。
「この休憩室、空き居室を使ってるんだけどさ」
1回目の見回りから休憩室に戻ってきてから、先輩職員が切り出す。
「先月まで使われててね。噂では、まだ幽霊が出るなんて話もあってね」
「やめてくださいよ」
「ふふっ、この仕事、そういうのに慣れないと続かないよ」
「は……はい」
「じゃ、さっきの手順通り、見回りお願い。なんかあったら起こして」
その晩、入居者達の寝付きが妙に良く、後輩職員は予定よりも遙かに早い時間で戻ってきた。
先輩は寝息を立てていた。
傍らのテーブルで、後輩は見回りの記録を付け始めた。眠気覚ましに食べた飴の包み紙をゴミ箱に捨てようとした、後輩の手が止まった。
仮眠していた先輩職員は、息苦しさに目を覚ました。
部屋は真っ暗だった。
何かで首を絞められている。
目を覚ます前から締められていたのだろう。もがく間もなく、意識が遠のいていった。
1年後、指導する立場になった後輩職員は、新人と夜勤に入る。
「先輩、噂に聞いたんですけど、ここの夜勤、幽霊が出るって」
「心配いらないよ」
元・後輩職員は微笑む。
「恨まれるような事をしていなければ、何にも怖くないから」
「……じゃあ、就寝薬配ってきます」
「飲まない人がいたら、絶対に回収してね」
「え?」
「どっかの施設で、入居者の飲み残した睡眠薬をキープしておいて、夜に騒ぐ入居者に盛ってた職員がいてね」
「ああ、そういう」
「やり過ぎて死なせた罪の意識で、その職員首吊ったんだよ。会社がもみ消したから、ニュースにはなってないけどね」
「薬盛っておいて、罪の意識で自殺、ですか?」
「幽霊が誘ったのかも?」
「ちょっ」
「後出し事実、殺されたのは、私のお爺ちゃんでした! ってね」
「なんだ、冗談ですか」
「配薬一緒に行こうか、その方がずっと早く終わるし」
「ありがとうございます」
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