幼いころは山里の村で過ごしていた。
同じくらいの歳の子供が村には殆どいなかったので、
1人遊びをすることが多かった。
山で山菜を採ったり、川で魚を釣ったり。
夏の日、私は魚を釣りに川に行った。
だが、まったく釣れなくて、場所を変えてみようと
日頃は行かない場所へ行ってみることにした。
そこは山裾というか崖下というか、
切り立った崖下の場所で、足場も悪く、
陽ざしもあまり入ってこなくて陰気で、
流れがよどんで渕になっている、
普段はあまり近寄らない場所だった。
ところが行ってみると、その日のその場所には
魚が大群で泳いでいた。いつもはそんなことはないのに。
興奮しながら釣り針を投げ入れると、
面白いほどに入れ食いで、何匹も釣りあげた。
ニジマスだった。
その川でニジマスは珍しかったが、どこかで釣り大会でもあって
漁協が放流したものが残って集まってきたのだろう。
夢中になって釣りまくった。
だが途中で急に竿が重くなった。
なんだか何かに引っかかったようだった。
強引に竿を引くと、針に引っかかって浮き上がってきたのは
ハンドバックだった。女性物の。
私はバカだった。
「お、財布とか入ってたらラッキー」
くらいにしか考えず、ハンドバックを開いた。
中にはただ、数珠が一個入っていただけだった。
私は大バカだった。
深く考えずに、魚とともに数珠を持って家に帰った。
祖父や祖母は、最初は孫の大漁を喜び褒めてくれた。
しかし「坊さんゴッコ~」とか言いながら
数珠を振り回している私を見て、
「あんた、ナニを持ってるの。え、なんで数珠?」
となり、経過を聞いた祖父がメチャクチャ怒り出した。
「捨ててこい!」と。
ニジマスも纏めて一緒に。
そこは「捨ててこい!」じゃなくて慌てて地元の青年団に連絡したり、急いで警察に電話するところじゃ・・・