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不思議体験

GENGOさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

足音
短編 2022/06/01 06:13 1,887view

仕事仲間のA氏から聞いた話。

若いころA氏は某県K市の営業所に転勤となった。
当時のA氏は独身で、K市の営業所には独身寮が備わっていたのでそこに入居した。
寮と言っても1棟すべてが会社の所有物件ではなく、会社からほど近い場所の
アパートの中にある1件を借り上げて寮にしていた。
3階建てで1フロアに8室くらいある大きいアパート。
正面の入り口から建物に入ると右側に上階に上がる階段があり、
真ん中の通路を挟んで両側に向い合せに部屋の入口が奥まで並んでいる。
寮として借りていたのは2階の端の1号室。
2階では一番出口の階段に近い部屋。広い居室も3部屋あり、
ダイニングキッチンや風呂やトイレも広かった。
主要駅からも近い。商業施設も多い。
それにしては超格安の物件だった。
先住していた先輩との2人暮らしとなったがおおむね快適に過ごせた。

少しだけ不快に想うことが時々あった。
深夜の2時とか3時、上の階からだったり同じ階の奥のほうからだったり、
誰かが走ってくる足音がするのだ。結構、大きな足音で。

大体は寝ている時間なので走る人を確認して見たことはなかった。
まあそういうこともあるだろうくらいに思っていた。
だが、だんだん、なんかおかしいな、と思い始めた。
頻繁すぎるし、その足音がほぼ毎回、寮部屋の手前で消えるのだ。
誰がが急いで走ってきたのなら、そのまま階段を駆け下って
建物の外に出ていきそうなものだが、
決まって足音は階段の途中や手前、自分たちの部屋の201号室の前で消えるのだ。
先住していた先輩に確認したところ、そういえばそういうことが多いような、とのことだった。

だが会社なり不動産屋なりに苦情をいうというのもちょっと違うカモ、
みたいになし崩しにそのまま生活していて、
気が付いたら2年くらいたちそのころにはほとんど気にしないくらいにまでになってしまった。

ある夜、繁華街で気分よく飲んだA氏と先輩はタクシーで帰宅することにした。
タクシーに乗り込んだA氏がアパートの住所を運転手さんに告げると
「ああ。あのアパート」とサラッと言われた。
え、なんのこと?あのアパートって有名なの?と聞いてみたところ。
「以前はラブホテルだったけれども火事で2~3人死んで、
 その後にアパートになったはずですよ」とのことだった。

運転手さんはそれ以上のことは知らないそうだったので、
その後に先輩とともに色々と調べてみた。
判ったのは、火事で煙に巻かれた人が3人、逃げ遅れて二階の通路で
亡くなったらしいということだった。
A氏と先輩は話し合った。
A氏「逃げ遅れて二階の通路でって・・・」
先輩「まあフロアの角、階段の前あたりで死んだのかもね。」
当然、会社にも連絡したが、
会社としてはあやふやな幽霊話でアパートを借りなおすわけにもいかない、
不動産屋としても部屋の中で死亡事故があったならともかく
廊下で死んでいたのでは部屋を借りる人に通知の義務はないし。
とのことだった。足音くらい、安いんだからいいじゃないか、とも言われた。
結局それから2年後くらいに先輩が転勤になり
「一人の寮生のために借りているには無駄だから」
と会社が寮自体を廃止するまでA氏は住み続けた。
それまで何度か足音は聞こえたが、家賃が安いのが魅力で住み続けたそうだ。
後半は、あえて足音がしても無意識に聞こえないふりをするように
なっていたそうだ。

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