パンドラ
投稿者:綿貫 一 (31)
これは、俺がまだガキだった頃に体験した話だ。
誰にも打ち明けられず、忘れようにも忘れられず、かといって今更どうしようもできずに、脳味噌という箱の奥底に仕舞い込んで、固く鍵を掛けた、忌まわしい記憶。
ただ俺はもう、そいつを抱えたまま生きることに耐えられなくなってしまった。
そいつはいつも箱の内側から、「出せ出せ」と叫び、俺をさいなんでくる。
その声に、俺は耳を塞ぎ続けてきたが、もう限界だ。
だから、ここにすべてを書き記そうと思う。
書くことで、箱を開けようと思う。
俺にとっての、パンドラの箱を。
たとえ百の苦しみと、千の災厄がその中から飛び出そうとも。
俺は――、
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1996年7月。俺は、小学5年生だった。
一学期もそろそろ終わりという、暑い時期のことだった。
その頃、俺の住む小さな田舎町では、ある恐ろしい事件が起きていた。
「児童連続失踪事件」。
その年の春から夏にかけて、3人もの低学年児童が、次々に行方不明になっていた。
誘拐の線が濃厚で、警察は行方不明者と犯人を、血眼になって探していた。
事件の影響は当然、俺たち子供を直撃した。
保護者同伴の集団下校。
放課後の外出は固く禁じられた。
遊びたい盛りの子供にしてみれば、友達の家に行くのも止められるような生活は、息の詰まるものだった。
俺はというと、近所に住んでいたAという友達の家に、放課後は入り浸っていた。
Aの家にはテレビゲームがあったし、俺の親も「Aくんのお家なら近いから」と、特別に外出を許可してくれていたからだ。
ただ、初めのうちはよかったが、ずっと家の中でしか遊べないとなると、さすがに飽きてくる。
たまには、公園でサッカーをしたい。自転車を乗り回して、遠くへ行きたい。そんな欲求が抑えられなくなってきた。
ある日のこと、Aの母親が外出して、家には俺とAのふたりだけになった。
もちろん「外出はしないように」と言いつけられていたが、フラストレーションが爆発寸前だった俺たちは、それを無視して家を抜け出した。
町の中をうろついていては、大人の目についてしまう。だから、自転車で町はずれの森まで行くことにした。
そこには、カブトやクワガタが採れる秘密の場所があって、夏場は絶好の遊び場だった。
外出が禁止され、誰もそこに近付いていないとすれば、さぞかし大漁も見込めるだろうと踏んだのだ。
うわ…続きが気になります