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ヒトコワ

ねこじろうさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ひとりじょうず
長編 2022/09/05 15:28 12,117view
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「ねえ悠太、今月24日のクリスマスだけど、どうする?」
デザートとして出されたチーズケーキの柔らかさをスプーンで確かめながら、わたしは向かいに座る悠太に少し甘え口調で尋ねる。

都心の百貨店最上階のイタリアンレストランは土曜日の夜ということもあって、そこそこ賑わっていた。
二人が初めて出会った去年の今日、12月5日。
わたしと悠太は夕暮れ時からおちあって、この百貨店でお互いのプレゼントを買い、都心の夜景を見渡せる窓際のテーブルで交換し合った。

小さなカップに入ったコーヒーを苦そうに一口飲むと、悠太はいつもののんびりした様子で答える。

「そうだなあ、24日は木曜日だから、会えるとしたら26日かな。
旅行はこの間したばかりだし、、
あ、ちょっと待って」
そう言った後、何か慌ててブラウンのジャケットの内ポケットからスマホをだすと、素早く指先で画面をタッチする。
どうやら、誰かから電話のようだ

「あ、ママ? 
うん、今、乃亜と一緒。
、、、、、、、、、、、、、、、

え?
いや大丈夫だよ、、
9時には帰るから、、
ところで、あのさあ、、、、」

楽しそうに電話のやり取りをする悠太を眺めながら、わたしは、やれやれと軽くため息をついた。

ちょうど1年前の今日、失恋のショックで落ち込んでいたわたしを見かねた友人が、婚活パーティーに誘ってくれた。
わたしはいわゆるアラフォーで、一人で生きていくのが楽と感じるいわゆる「ひとりじょうず」に成りかけていたのだが反面、結婚ということにも、まだ一縷の夢や希望を抱いていたのも事実だ。
そんな状態で参加したパーティーだった。
トークタイムで同席した悠太は39歳の艶やかな肌をした爽やかスポーツマンタイプで、まず見た目がタイプだった。
仕事は公務員で年収もそこそこあり、性格は穏やかで優しく、結婚相手としても申し分なかった。
─こんなに素敵な人がどうして今まで一人だったのだろう?
何か問題とかあるのでは?
もしかしたら、彼も「ひとりじょうず」?
等と下世話な詮索を色々したのだが、そんなことを考えても何も進まない。

これも神様が与えてくださった一つの縁と考えて、どちらかというとわたしの一方的なアプローチから交際は始まり、今日でちょうど1年になる。
本当にわたしにはもったいないくらいの相手なのだが、一つだけ不満があった。
それは、彼が典型的なマザコンだということ。
父親を幼いときに病気で亡くし、母の手一つで育てられた悠太にとって母親との絆は、世界中の誰よりも強いもののようだ。
大学進学のときも、就職先を選ぶときも、人生の重大な局面を決定するときは全て、母親の意見を9割取り入れてきたらしい。
だからわたしと一緒にいるときも、全く気兼ねなく母親に連絡をとる。
この間一緒に車で旅行に行ったときもそうだった。
出発するとき、まず電話
高速のパーキングで休憩するときに、電話
ホテルに着いてチェックインが済んだら、電話
ベッドに入る前には「おやすみなさい」の電話
一度だけ、このことに対して不満らしきものを言ったことがあったのだが、子供が親を大事にすることの何がおかしいの?と、逆に説教をされる始末。
まあ、このこと以外は問題のない人だから、わたしがここだけ我慢すればいいか。
こんな条件の良い人は後にも先にも無いかもしれないし、と無理やり納得している。

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コメント(1)
  • サイコっぽい!

    2023/05/14/10:25

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