一人暮らしの代償
投稿者:N (13)
大学進学とともに都会から少し離れた郊外で、この春から一人暮らしをすることになった。
大学費用は親が支払ってくれているが、家賃や交通費やら交際費なんかはバイトで稼いで自分一人の収入で生活する。
これが親元を離れて一人暮らしをする条件だった。
別に両親と家族仲が悪いわけではない。
寧ろ、他所よりは仲が良いのではと、友人から親の愚痴を聞く度に思っている。
俺の親は、浪人してもいいから地元で実家から大学に通ってほしかったらしく、現役に拘って県外の滑り止め大学に通うことを快く思っていなかったんだ。
だから「大学費用は出してやるが家賃なんか生活費は自分で稼いでみろ。それが無理なら浪人していいから地元の大学に行きなさい」なんてことを言われてカチンと来た俺は親に反抗して学業とバイトを両立することになったんだが……実際に両立してみるとほとんど寝る時間がもてなかった。
睡眠不足と疲労の蓄積で一日の大半をぼーっと過ごしていると、友達にソンビみたいだと笑われた。
そんなある日、俺は久しぶりに朝まで眠れる時間がとれ、少しでも寝不足を解消しようと布団に潜って寝息を立てていた。
この日は幽体離脱とでも言うのだろうか夢の様な体験をした。
かつてない浮遊感、俯瞰で見下ろす自分自身が見える。
部屋のベランダ側の角地にベッド置いているんだが、その頭上にある窓に人影が滲んでいる。
人影は窓ガラスに額を擦り付けるように密着していて、まるで室内の様子を把握しているかのように俺の頭上で佇んでいた。
カリカリカリカリ
ガラスに爪を立てる不快な音に神経をやられ、俺は深夜に目を覚ますことになる。
「くそ、せっかく寝てたのに」
悪態もつきたくなる。
久しぶりの安眠を邪魔された俺は音の出所を無作為に探り、首を傾けた。
頭上だ。
この時、ぼんやりと覚えていた夢の延長上だと理解できた。
寝惚け眼で見上げる窓ガラスに、人影をとらえる。
カリカリとした音は実際に人影が爪を立てているようで、手の輪郭が小刻みに動いているのがわかる。
泥棒か!
俺の思考は単純で、すぐに布団から飛び出した。
急な立ち眩みも辛抱して床に転がるコロコロを手に持ち臨戦態勢に入るも、さすがにコロコロじゃ心許ないと感じ、プリント束や教科書が詰まるリュックを盾として前に背負った。
「こらーー!」
何と言ったらいいのか分からなかったが、とりあえず怒号を飛ばした。
すると音がピタリと止まり、声に反応するかのように人影の頭部がくるりと俺の方へ動く。
やけにくっきりと見える人影だな、なんて思いながら、俺は畳み掛ける。
「警察呼んだぞ!捕まえてやるからな!」
面白かったけどなんだか不安になる話