一人暮らしの代償
投稿者:N (13)
勿論嘘だが、虚勢を張ると人影はスーッと窓辺から姿を眩ませたのだった。
翌日、この奇っ怪な話を友達に話すと、
「お前つかれてんじゃね?」
盛大に笑われた後、普通に心配された。
と言うのも、俺の部屋は二階で、ベランダから逃走するには飛び降りる他ないのだ。
実は、昨夜あの後すぐに俺は窓を開けてせめて背格好だけでも見ておこうと思い至ったわけだが、人影は一切の物音を立てずにその場から逃げおおしたのか姿形は何処にもなかった。
そんなこともあり、俺は夜勤の最中も部屋のことが気掛かりで身が入らず新人がやるような初歩的なミスを頻発し、年上の同僚に迷惑をかけてしまい、少し憂鬱な気分に堕ちた。
既に朝焼けを越えて電車が走り人の足並が増えた頃、俺はそのシステムに逆らうように帰路につき、大学へ向かう準備をする。
まともに眠れるのは週末だけ。
その為、睡眠のほとんどを電車で補っていた。
人影を見てから三日ほど経過した日、俺は大学の図書室で居眠りしてしまい、気がつけば昼が終わり、六限目が過ぎていた。
慌てて目覚めると友達からLINEが来ていて出席シートを代わりに出してくれたらしく、本当はダメなのだが友達のお陰で欠席扱いにならずに済んだ。
俺は荷物を纏めて七限目の教室へ移動しようと立ち上がるが、急な立ち眩みで視界が白くぼやけたと思うと、血の気が引いて頭が冷えていく感覚に溺れる。
そして、机に手を付いて体を支えていると、不意にカリカリカリと何処からか不快な音が聞こえてきた。
あの晩窓ガラスを引っ掻いていた音によく似ている。
まさか、近くにいるのか?
俺は目頭を押さえ、軽く頭を振った後、辺りを見渡した。
筆を走らす音、紙を捲る音が細やかに奏でる空間の最奥、ちょうど本棚影から何者かが半身乗り出して佇んでおり、こっちを向いている。
あの時の人影と同一人物だと直感した。
ただ、昼間だと言うのに相変わらず真っ黒なか影法師のようで、気味が悪かった。
それにカリカリカリと耳障りな音を誰一人気にしてない様子に俺は少なからず困惑した。
「おー、○○来てたか」
声を掛けられ図書室の出入口へ向くと講義を終えた友達がやって来た。
友達に挨拶を返し、再び本棚へ顔を向けたら人影は消えていた。
「どうした、寝惚けてんのか?」
「……いや、それより出席出してくれてありがとう、助かったわ」
「マック奢りな」
ちゃっかり夕飯をねだられたが、出席は金に変えられない。
俺は苦笑しつつも頷いた。
友達とマックで夕飯を済ませ帰路につく。
時刻は既に夜の8時だったが、2時間後には夜勤が入っている。
風呂に入り、歯磨きをして、一時間ほどパソコンやスマホを弄っているとあっという間に出勤時刻に迫り、俺は部屋を出た。
面白かったけどなんだか不安になる話