階段から聞こえる音の正体
投稿者:with (43)
玄関の施錠ノブに手をかけ重たい体を腕の腕力だけで引っ張り起こす。
廊下から身が離せない俺は「早く車通れ!」と明かり欲しさに神様に頼ってた。
その願いが通じたのか車が通りすぎ、ライトが廊下を全面に照らしてくれた。
そこには何もいなかった。
「あれ…?」
一瞬にも満たない明かりだが廊下に何もいない事を確認できた俺は気が抜けたように安堵した。
そして、とりあえず外に出て安心したい気持ちもあったから振り返って開錠しようと思った。
「ああああああああっ!?」
振り返れば玄関のすりガラスにへばり付いた人の顔が目の前にあった。
その直後、二、三回照明が点滅し、廊下の電気が復旧した。
視界が明るくなったことで目を細めた俺は、すぐに玄関のすりガラスを見上げる。
何もいない。
そしてすぐに廊下を振り返るが、やはり何もいない。
音も聞こえなくなり家の中は静寂に包まれてるようにシンとしていた。
俺は立ち上がって家の外に出てみた。
深夜だから当然寝静まっている家がほとんどだが、所々電気がついている家庭もあるし、何より外灯もちゃんと点っている。
今みたいにLINEとかSNSツールが普及していればすぐにあれが停電だったとわかるんだろうが、ブログ全盛期のガラケーの時代にそんな便利なツールはない。
俺は外の空気を吸ったあと落ち着きを取り戻して家に戻った。
翌朝、旅行を満喫した笑顔の両親が帰宅したが、俺はどう出迎えればいいかわからなかったので、とりあえず愛想笑いしておいた。
カップ麺やペットボトルの空き容器のゴミの山を見て母から大目玉を食らったが、あの恐怖体験の後ではこの瞬間は本当に安心できた。
それから県外の大学進学が決まり県外に出て、就職もして30越えた頃、帰省した時に当時の恐怖体験を思い出したので両親に話してみた。
「高校の時さこの家で怖い体験してさ」
家鳴りが聞こえた時からの体験を全部話すと、両親は特段驚くといった様子もなく、平然と受け入れていた。
不思議に思った俺は「嘘だと思ってる?」とちょっと不機嫌に訊ねたのだが、両親は笑いながら、
「信じてるよ。今でも家鳴りはしてるし」
まるで日常茶飯事だとばかりに平気な面で告げる親に俺は口を開けたまま何も言えなくなった。
どうやら両親は俺が家鳴りが聞こえると言い出した前からその現象に気づいており、たぶん幽霊だとも思い至っていた。
実家は中古物件を安く買えたのでリフォームしたらしく、家鳴り以外に心霊現象もないので放置していたのだとか。
せっかく購入した家を手放すのはローンもあり経済的にも厳しいので、俺には幽霊が出る事を黙っていたらしく、家鳴りがすると言い出した時は結構焦ったらしい。
勿論、俺が当時体験した事を話していれば引っ越しも考えたと笑いながら言われたが、正直怪しいところだ。
結局あの恐怖体験以降何も起きなかったし、そもそも両親には家鳴り以外何も起きないなら問題ないのかもしれない。
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