階段から聞こえる音の正体
投稿者:with (43)
ギシギシ、と音が近づいてくる気配がしたから俺は咄嗟に足腰を叩いて無理矢理足を動かし、リビングへ駆けこんだ。
それからテレビも音量を上げて電気も点けたままにした状態で朝が来るまでコタツの中に潜り込むようにして身を隠した。
翌朝、日課の支度を終えた後階段下から二階を見たが、音が聞こえることはなかった。
その日の部活は考え事をしていたせいか身が入らず先輩に何度か怒られたりして大変だった。
買い物も終えて憂鬱な気分で帰宅する。
秋口のせいか18時ごろは暗がりが増して、家の中もどんよりしている印象だった。
この日もインスタント食品で満腹になり風呂も入って後は寝るだけの状態だったが、どうにも寝るのが怖かった。
トイレに起きれば嫌でも階段の横を通る事になる。
それが途轍もなく不安でたまらなかった。
案の定、俺は深夜にトイレに起きた。
昨夜の体験からコタツで寝ていてリビングや廊下の電気は点けっぱなしにしておいたが、それでもトイレに行くのは勇気がいる。
なるべく階段を視界に入れないようにトイレを済ませリビングに戻ろうと速足になっていたんだが、やっぱりあの音が聞こえてリビングのドアの前で立ち止まってしまった。
俺は泣きそうになりながら踵を返して廊下の突き当りに進む。
何というか、興味本位じゃないが本当に体が引き寄せられるようにして自然と動いてた。
ギシ、ギシ、ギシ。
いつもよりはっきりと聞こえる。
階段上の仄暗い廊下の角地から、更に黒く染まった何かが動いている気がした。
「うひっ…」
結構情けない声が出た気がする。
本当に怖い体験すると喉が干上がったように絞られてうまく発声できないんだなって、後から思った。
逃げなきゃ!って強く念じたら手足の感覚が戻ったように反射的にそこから動けた。
リビングは玄関側に近い所にあるんだが、ドアまで行った所で突然電気が消えて暗闇につつまれた。
「は!?停電!?」
俺はパニックになってたと思う。
幸い家の周囲は車通りが多く、断続的に車のライトが玄関のすりガラスを抜けて廊下を照らす。
その光が廊下の突き当りを照らした時、俺はトイレの前に佇む人のような塊に目が釘付けになった。
「うわあああ!?」
今度は普通に悲鳴が出て俺はその場に尻もちついた。
咄嗟に思ったのは、あの人影が泥棒でも幽霊でも命の危険には間違いないということで、俺は赤ん坊さながらハイハイして玄関を目指す。
時折振り返るが暗闇のせいで何も見えない。
ただ、ギシギシという音だけが奴の接近を知らせる。
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