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妖怪・風習・伝奇

焦慮バッタさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

大きなカタツムリ
長編 2026/07/02 18:31 532view

気づくと、窓のカーテンから朝日が差し込んでいた。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
背中を触ってみても、そこにはただ人間の皮膚の質感があるだけだった。

学校へ行くと、桃野先生が話しかけてきた。
優斗の一件以来、教師が自分のことを気にかけていることは知っていたが、それはもう今の自分にとってどうでもいいことだった。
「・・・何ですか?」
気怠げな声で応える。

「優斗くんが、会って話がしたいって。
 もう直接話ができる期間も長くないはずだから、行っておいで」

放課後に「しずくの家」に行くと、入口からすぐの、かつて春道くんと話をした広場に優斗はいた。
背中の殻は相当大きくなってきており、”奥の部屋”に入るのも近そうだった。

約半年ぶりの対面。
こんなに鼓動が早くなるのはいったいいつ以来だろう。
互いに向き合う。
何を話していいのか分からないまま、秒針を刻む音だけが聞こえてくる。

「ごめん」

張り裂けそうなほどの沈黙を破ったのは、優斗だった。

「せっかく楓が慰めようとしてくれたのに、ただでさえ一緒に過ごせる時間は限られていたのに、それを、うぅ・・・」
そう言うと、優斗は泣きだした。
「いや、悪いのは全部僕だったんだ。優斗がどれだけ思い詰めてるかも知らずに無神経なことばかり言って、ごめん。」
気づけば、僕の目からも涙が零れていた。

それから僕たちは、半年間溜まりに溜まった、いろんな話をした。

日に日に自分の体がカタツムリに浸食されていく恐怖を、同室の子が次々に”奥の部屋”へと消えていく絶望を、僕は真剣に受け止めた。
たくさんの思い出話もした。
田んぼのあぜ道で、一緒にスッポンを捕まえたこと。
一緒に夢中で野良犬の後をつけていたら、いつのまにか隣町まで来ていたこと。
1年生の時、初めて出会って、初めて話をした時のこと。
下校のチャイムが鳴るまでは、本当に一瞬だった。
「本当は、残された時間、思いっきり楓と遊びたかったのに、いろんなことを話したかったのに、もう取り返しがつかなくて」
「そんなことはないよ」
僕は、優斗の目を見据えて言った。
「いまからでも遅くなんかないよ。
 これから、空いてる時間はいっぱい遊んで、いっぱい話そうよ。
 そうやって、少しずつでも、失った時間を取り戻そう。
 僕は明日も来るし、明後日も来るし、ずっと来るから。」

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