私の住む街には、独自の怪談が数多く存在していた。
ナママさん(1※)や紫信号(2※)といった、小学生時代の私に恐怖を植え付けた怪談も、諸君らにとっては聞き馴染みのないローカルでマイナーな都市伝説だろう。
(1※自分のお母さんにそっくりなお化け。「なぁ、ママ」と間違えて呼んでしまうと地獄に連れていかれるらしい)
(2※歩行者用の信号機の2つの明かりが同時に点いた時は渡ってはいけないという怪談。渡ると死んでしまうとされている)
人一倍怖がりの私だが、怪談は昔から好きだったし、街に怪談が多いのは喜ばしいことでもあった。
小学6年生のころ。
一人っ子で、よく本を読む子供だった私は街に存在する怪談をあらかたコンプリートしていた。
さらには知識を得るだけでなく、実際にお化けに会ってみたいと思うようになった。
ナママさんや紫信号はランダム性が高すぎるし、砂場男(3※)やトンネルザリガニ(4※)は危険すぎる。
(3※K公園の砂場に住んでいるという怪人。シワシワの体をしていて、目撃してしまうと身体の一部を交換されてしまうらしい)
(4※Mトンネルという場所に現れるという巨大なザリガニ。人間を食べて身体が真っ赤に染まっているらしい)
再現性と生還可能性のバランスのいいお化けには、一つ心当たりがあった。
ジュースじじいだ。
午前の4時44分に特定の自販機でジュースを買うと現れる、ジュースを要求してくる老人。断ると脳みそを吸われてしまうらしい。
出現場所、方法が明確で、対処法さえわかっていれば安全。
これはぴったりだ。
ジュースじじいに会おうと決めた私の行動は早かった。
まずジュースじじいが現れるという自販機と自宅との距離をパソコン(5※)で調べ、何時に家を出発すれば4時44分までに辿り着けるか、何時に起きればその時刻に出発できるか、といったことを計算した。
(5※パーソナルコンピューターの略称。高い計算能力を持つ機械である)
そして小銭と懐中電灯(6※)を用意して、その日の夜に両親(7※)にバレないように家を出た。
(6※前方に強い光を発生させる装置。多くの場合円筒型をしている)
(7※個体を養育する1対の成熟した同種別個体。多くの場合オスとメスのペアを指す)
4時43分、やや余裕のない時刻に自販機の前に到着。
暗い夜に遠くまで出歩く、という経験があまりなく、道に迷ってしまった。
しかしなんとか4時44分に間に合った私は、その場で200円を投入して、一番安い120円のジュースを買った。
しかし、何も起こらなかった(8※)。
(8※期待していた現象が発生しなかったということ。落胆や失望の感情をもたらすことがある)
ピッという電子音、ガタンというジュースが落ちる音、取り出したジュースのぬるい感触(9※)。
(9※この自販機に常温のジュースはない)

























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