「・・・あのさぁ」
「ん?」
「楓は前に言ってたよな?
カタツムリになることは辛いに決まってるって。
全部、何もかも忘れて、彷徨い歩くことしかできないのに、辛くないはずがないって」
「それは・・・」
「お前も本当は俺のことを哀れんでるんだろ?
全部忘れて、考えることもできなくなって、可哀想にって!
無理に励まそうとなんかしなくていいって。
哀れむんなら哀れめよ!」
西日の影になった、住宅街の薄暗い一角が静寂に包まれる。
「別に楓が悪いって言ってるんじゃないよ。事実なんだし」
暫しの静けさの後、優斗はそう呟くと、僕を置いて、西日が差し込む反対側へと歩いて行った。
僕はその後ろ姿を、ただただ見ていることしかできなかった。
4.
それから、僕らは一度も口を聞くことがないまま「移ろいの式」を終え、優斗は5年2組を去っていった。
あっという間の出来事だった。
僕はどこで間違ってしまったのだろう。
3年生のあの時、「辛いに決まっている」なんて言わなければよかった?
変に明るく接するんじゃなくて、もっと優斗の内面に寄り添ってあげるべきだった?
そんな、もうどうにもならないことばかりが頭の中を逡巡するうちに、時は過ぎ去っていった。
季節は移ろって春になり、僕は6年生になった。
満開の桜も、脇道を覆う花々も、その全ての色彩が死んだように見えた。
算数のテスト結果にも、入学したばかりの1年生とのレクリエーションにも、何に対しても少しとして心が動くことはなかった。
6時間目を終えると、誰とも話さずに家に直帰し、自分の部屋に閉じこもる。
夕食の時だけ居間に降りると、すぐにまた部屋に閉じこもる。
「一番の友達が、ねえ・・・」
「上司のお子さんも・・・」
「あと少し辛抱すれば・・・」
「13歳にさえなれれば・・・」
「でも、この前ニュースで14歳の子が・・・」
1階から両親の話声が断続的に聞こえてくる。
もう何も考えたくなかった。
いっそのこと、カタツムリにさえなってもいいと思った。
明日の朝起きたら、1センチ大の殻が背中に出来ていて、「移ろいの式」に出て、「しずくの家」に入って・・・
優斗と同じ、しずくの家・・・
そうしたら、また仲直りできるのかな・・・
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。