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「……ありがとう、とりあえず大丈夫じゃ。」
次は俺が洗いざらい話す番だった。
「俺は単なる病死だよ。心不全だったんだ。」
と、親父の切なそうな顔を見て呟いた。
「ただの心不全なんかではなかろう。おまえもあの嫁(ツマ子)に殺されたようなもんじゃないか?わしはこの家の屋根からみとったぞ、何もかも。」
低空には黒っぽい分厚い雲が広がっているが、空気を割るような凄まじい雷鳴が聞こえた。パラパラと雨粒が落ちてきたと思ったら、瞬く間に大粒の雨嵐となり、ドコドコ、バラバラバラと音を立てて降り始めた。
親父と俺は、昔一緒に暮らしてた家の軒下に降り立ち、そこで雨宿りを始めた。その場所で、俺はツマ子から受けた仕打ちを、親父にポツリポツリと話し始めた。
「俺は元々糖尿持ちだったんだ。ある時不整脈だと思って病院に行ったら、心臓血管バイパス手術が必要だと言われてさ……。」
「手術の説明を聴いたが、あまりに大がかりなものじゃから、すぐに決断できなんだんじゃな?」
と、親父は真面目な顔で俺に問いかけた。
「そうだよ。その頃にはツマ子も緑内障だの不眠症だの病院に通いづめで、人工股関節にもなっててな。俺は36歳から会社勤めを始めたから、金銭面で苦しかったというのもあった……。」
「結局、おまえがバイパス手術を受けることはなかったのじゃな?」
「そうだよ。12時間にも及ぶ大手術で、人工心肺装置を使って一時的に心臓を止めるとか言われてよ。運悪く手術のショックで脳梗塞を起こす人もいるとか説明されたら、誰だって考える時間が欲しくなるだろう?一方でさ、その時はツマ子だって動脈瘤を取ったばかりだった。巷でよく言う夫源病とか病老介護ってやつかなあ。俺が寝てばかりで世話が焼けるとか言い出して……。」
ザアザアザア、ドドドドドと土砂降りの雨はまだ止まない。風までもがヒュオオオーッと高らかな音を立てて舞っている。雨どいの一部が破損しているのか、少し離れた場所から雨水がジョボジョボと落ちている。
「娘のオトが来てくれて俺は嬉しくて、それから2〜3日は気分がよかったよ。オトの息子二人もそのとき結婚が近かったみたいで、俺も手術を受けて元気になりたいと思ったな。でもなあ、夜明け前に左の脇の下が締め付けられるように痛くなってな。その時に畳のあの部分をさ、爪たてて掻きむしってやったのさ。そのままウトウトしてたら、ツマ子に起こされて早く畑に行けと言われた。俺の体調を心配したオトとツマ子が口論を始めたから、俺は急いで作業服に着替えて、長靴を履いて畑に行ったよ。うっかり水筒を忘れたままでな。そしたらまた……。」
「!ひでえな!憂一、それで外でも具合が悪くなったじゃな?」
「そうだ。草ぼうぼうの畦道に寝っ転がって休んでたら、たまたま親夫(ちかお)さんに遭ったんだ。あの松の木の神社のニ件隣に住んでる人だよ。途中で俺の水筒を持って走っていたオトを見つけて、そのままオトを軽トラックに乗せて、俺の畑まで来てくれたんだ。それで、親夫さんに家まで軽トラで送ってもらったんだ。でもなあ、また……。」
「ツマ子さんがおまえに怒ったんじゃろう?」
「そうだよ。親夫さんが俺を背負って玄関まで行くと、ツマ子が俺に怒鳴りつけやがったんだ。『ご近所さんに迷惑かけて、みっともない』って。俺はもう反論する元気もなかったけど、親夫さんが『あんたは早くナガオさんに電話せんかい』って、ツマ子に怒ってくれた。オトが病院に行く準備を済ませてたから、そのまま親夫さんに手伝ってもらって、オトの車に乗せてもらったよ。」
「そうか、親夫さんいい人だな……。ナガオはその後病院に来たのか?」
「ああ、途中で道が混んでたみたいだけど、病室まで来てくれたよ。少し話もできた。俺はそのまま病院で寝てたけど、ナガオもオトも一緒にいてくれたよ。息苦しいけどまだ息をしたいと思ってたら、ナガオとオトが涙声で俺を呼んでんだ。その後で医師が来て、「死亡確認しました。ちょうど19時ですね。』だって……。」
「大変だったな……。ところで、ナガオの嫁さんと孫たちはどうしたんじゃ?」
「俺の喪が明けた後に出ていっちまって、いま離婚協議中だよ。敷地内同居だったけど、ツマ子が勝手にナガオらの家に入るどころか、蝶子さん(ナガオの妻)の衣類や鞄や貴金属類のチェックまでしていたんだ!」
「ひでえな、そりゃツマ子さんに合鍵なんか渡したナガオも悪い!」
「蝶子さん(ナガオの妻)から相談をされて、俺も何度もツマ子に注意したんだけど、『そんなことやってえへんわ』しか言わなくってさ。俺は蝶子さんの為に何もしてやれなかった。そのうち、俺もツマ子に極端にしょっぱいものや、甘すぎるものを出されるようになってなあ……。」
「あのヨメ(ツマ子)め、なんてヤツじゃ……!」
と、親父は眉間に皺を寄せて歯ぎしりした。


























沈丁花です。新作の執筆に行き詰まり、前回の作品を読んでいたら、アナザーエンドが出来てしまいました。″デルタ″には「違い」「変化」という意味があります。
沈丁花です。このお話の前半部分は、原作とあまり変わりません。後半部に新たに肉付けし、違う終わり方にしました。