※【高齢者をいじめる描写があります】
私は中部地方の田舎の生まれです。この話は私の実家がある町内で、10年ほど前に本当にあった出来事を元にしています。主に父方の祖母から聞いた話なので、少々創作が入っています。
まず、私の実家がある場所ををJ地区、その隣の集落をここではK地区としよう。
祖父母と両親は敷地内同居をしていたが、両親が共働きだったため、キョウダイと私は祖父母の家で時間を過ごすことが多かった。その時、私は大学生でお盆のために帰省をしていたが、温厚な父方の祖父が昼食の折に珍しくボヤいていた。
「K地区の哀子(あいこ)さんが、わしがすぐ近くにおるのに、またウリやらトウモロコシやら盗っていきよったわ!」
祖母も困った顔をして、祖父の愚痴に耳を傾けながら漏らした。
「哀子さん、何も言わんと人んちの野菜やら果物やら盗んでいくからな。ほんに、タヌキやカラスと同じやわ。」
私はそこで初めて畑泥棒の話を聞いたので、驚いて祖父に詳細を尋ねた。
「おじいちゃん、その女の人、そのあたりに住んでるの?」
「もう廃業しとるけど、K地区にМ内科があるやろ。そこの斜め向かいの家に住んでなさるわ。」
「ええ、うちの畑から歩いて30分ぐらいかかるやん!すごい元気!その人、いくつなん?」
「多分やけど、74~75歳や。」
「ふうん。で、その哀子さんって人、なんで農作物泥棒なんかしとるの?お家も立派で、旦那さんも大した甲斐性もちやの」――
「あっ、あの人は食べるものがないのや。」
と、祖母がそこで口をはさんだ。
「哀子さんの野菜泥棒のことはな、家で言うのはええが、外では絶対に誰にも言うたらあかんで。万一警察でも来たら、『誰が言いつけたんや』と犯人捜しが始まるんでな。」
と、祖父が真剣な顔つきをしてボソッと言った。
祖父母はそれ以上話さなかったが、警察に通報した者には、田舎にありがちな恐ろしい仕返しが待っていると私は悟った。つまり、か弱い高齢女性を警察に突き出した冷血人間として扱われるのだ。
私はその日の夜、K地区の哀子さんがなぜ畑の生り物を失敬するのか母に訊いてみた。
「よその人には絶対に言うたらあかんよ。あの人はな、養子娘(家付き娘)さんと婿さんに年金を奪られてしまっとるの。」
と、母は切ない眼差しを私に向けた。
「ええっ!じゃ、なおさら警察に言うたらええのに。そしたら、泥棒は娘夫婦の方やと分かるやん。」
「それはお隣のK地区での噂や。娘夫婦が本当に哀子さんの年金を全部盗っとるかどうかなんて、赤の他人には分からんやろ?70歳を超えとるのに捕まるなんて可哀想やから、みんな我慢しとるんや。」
と、母は苦虫を嚙みつぶしたような顔で答えた。

























哀子さんの娘さんの仮名は、当初「吾子(わが子)」にする予定でした。より読みやすくするために「アコ」にしました。
沈丁花です。一部誤字や分かりにくい表現がありましたので、修正・加筆しました。これまで読んでいただいた644名の皆様、大変失礼いたしました。誠に申し訳ありませんでした。もう、どうして私はこうもそそっかしいのかなあ・・・・・・。