しかも、あのクソ女の考えた罠に。
「若林さん。なんで、こんなこと……。ほんと、ショックだよ。ミスは多いけど、いつも利用者さんのことを思いやっ――」
「番場さん。私、番場さんのことが好きです」
突然の告白に面を食らったようで、番場さんは「あ、……うん」と曖昧に短い言葉を発するけれど、私が聞きたいのは相槌ではなくて、告白の返事だ。
「私、番場さんが好きです。番場さんはどうですか? 私のこと、好きですよね?」
「……ごめん。若林さんのこと、そういう風に考えたことは、ないよ」
「……」
私はポケットに入れていた手をゆっくりと出していく。番場さんは気まずそうに私から視線を逸らしていたけれど、私の挙動を視界の端で監視しているのがわかる。
「そうですか」
私は右手に握ったペティナイフから革でできた鞘を外し、その刃先をベッドで側臥位になっている熊田の首元に思い切り刺す。
引き抜いた瞬間、ブシューと音が聞こえるくらいに血が吹き出し、壁は真っ赤なスプレーを噴射したみたいに赤く染まっていく。
「あ……わ、若林さん……」
刃物を持つ私に怯える番場さんに、私は優しく微笑む。
「番場さん。私、番場さんが好きなんです。結婚してください」
「あ……や……」
「番場さん。結婚、してください」
「……ご、ごめん、なさい」
「それは、結婚してくれないということですか?」
番場さんはその場に座り込んでしまう。
返り血に染まる私に怯えているのか、それとも単純に刃物に対する恐怖心なのかは判然としないけれど、一歩近付いた私から逃げるように後ずさる。
「私と結婚するのは無理ということですか? お付き合いすら、無理ということですか?」
「…………」
番場さんは応えない。
「私、番場さんの望むことならなんでもしますよ。なんだってできます。私って、結構尽くす女なんです。あと、家庭的だし。ふふ、なんでも言ってください。番場さん、私になにをしてほしいですか?」
「お、落ち着いて。うん、落ち着いてほしい、かな」
「いやだな、落ち着いてますよ。むしろ落ち着かないのは番場さんのほうじゃないですか。どうしたんですか? そんなに震えて」
番場さんはドアの方をチラチラ見ている。恐らく、隣のユニットで就寝介助中の結城さんが来るのを待っているのだろう。ここで大声を出してしまうと、私になにかされてしまうのではと考え、会話を引き伸ばしていると思われる。
「……私、番場さんがしてほしいこと、ひとつわかっちゃいました」
「な、なにかな」
私は番場さんの方からベッドへと身体の向きを変え、既に動かなくなっている熊田の腹部にナイフを突き刺す。


























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