「それじゃあ、フロア会議を始めます」
リーダーの結城さんは今日の議題が書かれた紙を私達四人に渡して、ひとつ咳払いをした後にそう言った。
私が働いているユニット型の特別養護老人ホームは、非常勤も含め職員5人で、1ユニットの利用者10人を担当している。隣接してもう1ユニットあって、そちらも同じく職員は5人で、担当ユニットは決まっているものの、シフト上、どちらのユニットになることもある。
そして、それぞれのユニットごとに毎月一度、定例のフロア会議が行われるのだ。
「じゃあまず――」
ちらりと私を一瞥してから「若林さんのことから」と、手に持っている資料に目を落とす。
「……もう今まで散々言ってきたから敢えて直で言うけど、正直ミスが多過ぎる。何回注意しても全く改善されてない。どういうこと?」
周囲の視線が私に集中するのを感じて、私はいたたまれなくなってしまい、下を向く。
「はあ……。えーと、じゃあ今月も具体的にミスの内容を言うけど、まず、居室に排泄道具を置きっ放しにすることが多過ぎる。2回に1回は置き忘れてる。しかも通路に置いてるときもあるから、利用者さんがそれで転倒することもあり得るし、これはほんとどうにかして」
「……はい」
「それと、服薬後の空包をテーブルに置きっ放し。これ、前に異食あったこと覚えてたら絶対できないと思うんだけど。小野さんが亡くなったのはあれだけのせいじゃないだろうけど、あの日を境に食事も取らなくなったの覚えてるよね? あの時も注意したよね?」
「……はい」
「それと、マットセンサー入れ忘れ。今月だけで4回の転倒。天野さんは骨折して入院中。中野さんは顔から倒れてるし、これさ、命に関わるミスなんだけど。繰り返すけど、今月だけで4回だからね。全部若林さんのミスで」
「……はい」
「あとは、居室から食堂に誘導する時に義歯を入れ忘れてるのも数回。フットレストもつけ忘れが何度もあるし、この前の河合さんなんて、アームレスト部屋に忘れてたんでしょ? 普通忘れる?」
「……はい」
「はいじゃないんだけど。なんで忘れるの? そんなになんでもかんでも。しかも1回やったミスを何回も繰り返すし。毎月毎月、何回も言ってるのに、なんで改善しようとしないの? なんで同じこと繰り返すの?」
「……ごめんなさい」
「あたしに謝られてもしょうがないんだけど。いや、謝ってほしいけどね、正直。リーダー会議でも毎回指摘されるからさ。あたしのせいになるしね。指導不足みたいなこと言われて」
休む間もなく次から次へと私のミスを指摘したリーダーの結城さんは、バンバン言葉の砲弾を打ち込んでくる。私がどんな言い訳をしてもきっと納得してくれないだろうし、どれだけ真剣に謝っても聞き入れてはくれないだろう。
私だってミスしたくてしているわけじゃないし、なんでミスするのかなんて私が訊きたいくらいだ。
いつも結城さんと北島さんの2人に小言を言われ、他の職員もそれに乗っかって私を悪く言うこともあるので、言葉の集中砲火に必死で耐えている。
……毎回毎回言われる方だって辛いのに。なんでわかってくれないの。
そんな風に心の中で愚痴をこぼすのもいつものことだけれど、もうひとつ、いつもの恒例ともいえるフロア会議名物があった。
それは。
「まあまあ、でもさ、若林さんだって頑張ってるじゃん。ミスはミスだし、もちろん良くないけど、それでもミスしてないときはしっかり仕事できてるんだし、そういうところも見てってあげないとだよね」
そう言って私をフォローしてくれる番場さんのことが私は大好きだ。
結城さんは、私の粗を探すみたいにしていつも注意できることばかりを見ている気がするけれど、私が頑張ってることを知ってくれている番場さんのお陰で仕事が続けられているのは間違いない。
「あのね、そうやって番場くんが甘やかすから全然反省しないんじゃないの?」
「反省はしてるでしょ。ね? 若林さん」
「は、はい。もちろん、してます」


























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