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ヒトコワ

入月麗奈さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

放火前は片想い
長編 2026/05/05 13:52 1,437view
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 何となく察した。要するにこいつは私におめでとうを言いたくて、窓に石をぶつけて私が顔を出した時に「誕生日おめでとう」と伝えようと思ったんだ。

「アホやなって思うやろ? でもしゃあないやん。だって自分頑なに俺に番号教えへんし」
「当たり前やろ。どこの誰がストーカーに携帯教えんねん」
「誰がストーカーや! ……っ」

 声のトーンが大きくなり慌てて両手で口を塞ぎ、忍冬さんちから親父さんが顔を出さないことを確認してほっと胸を撫で下ろしてるような気弱な男に誰が教えるか。

「いや、他のバイト仲間みんな知っとるやん。俺だけやん。知らんの」
「そらあんただけやもん。教えたくないの」
「だからなんでやねんて……いや、今は教えたくない理由を聞きに来たんちゃうねん」
「……で、これどうすんの」

 割れた窓を指差し、ジト目で窓の下の男を見下ろす私。

「……弁償します。――とか言ってる間に過ぎてるやん! あ、おめでとうな」
「……どうも。てか、弁償するとか言って、それはそれでもちろんしてもらうけど、私あんたが新しく窓入れ替えてくれるまでこの割れた窓のまま生活しなきゃあかんの?」

 現在12月4日の午前0時を回ったところ。流石に窓無しは寒くて堪らない。私の部屋にエアコンはなく、ハロゲンヒーターで何とか暖を取っているのに、吹き荒ぶ真冬の冷風を受けながらではどれだけハロゲンと二人協力しあっても体調を崩さない自信は、どちらかと言えば病気しがちな私には毛頭ない。

「あ、じゃあ詫びっちゅうわけでもないけどさ、なんか代用品で穴を埋めるわ」
「誰が?」
「俺が」
「はぁ……だからどこの誰がストーカーを部屋に招き入れる思とんねん」
「誰がストーカーや――って、おい!」

 いきなり分かりやすいノリツッコミみたいな言い方をされて、いやでもお前否定してるからノッてないやんけボケカスと思った矢先、パチパチと背後で音が鳴っていることに気付き、夢野に私の後ろを指差されるまでもなく振り返るとドア側の壁が真っ赤に燃えている。

「……え?」

 さっきのえ? からまだ10分も経っていないのに、さっきよりも脳が理解する気をなくしているのか、真っ白で空っぽの頭でクエスチョンマークの数を数えるような現実逃避をしている暇はないと、たっぷり1分程の時間を使って私は現実に引き戻される。

「なにボーっとしてんねん! はよ逃げろ!」
「逃げろって……」

 ドアが灼熱の炎に包まれているのに、どうやって逃げろというのだこのアホはほんま他人事だと思いやがってという悪態をついている暇はもちろんないので言葉には出さずに心の中だけで叫ぶのだけれど、私がクエスチョンマークを数えていたたったの1分で炎は更に部屋の半分近くを焼き尽くしている。

「彩香!」

 窓の外から聞こえたのは私を19年間育ててきてくれた紛れもない私のお母さんの声で、お母さんは逃げられたんだという安堵感と、ストーカーや近所の親父とは違う、やっと身近な人物の声が聞けた安心感が先に立ったものの、あれ、私だけ取り残されてるってことかい? てことはなんかもう絶対絶命じゃんこれというか絶命って命が絶たれるって書くってことは絶対に死ぬって意味でじゃあ私これで死んじゃうってことかなでも私が勝手に絶対絶命だって思っているだけで実際は世間的に言えばこんなのは絶対絶命なんかじゃない可能性もあるわけでとか考えている暇なんてないんだ!

「おかん! どうしよ! 私死ぬの!?」
「飛びおり!」
「無理!」
「無理やない!」
「無理やって!」
「あんたお母さんの子やろ! できる!」

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コメント(1)
  • 愛だね(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)

    2026/05/08/01:59

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