「これは御札・・・というより、呪符といった方が正しそうね」
そう言って彼女はそれをくしゃくしゃに握りつぶした。
〇
改札を出ようとした時に、ミコがふと立ち止まった。
「どうした?」
「深山君これ」
彼女が指さす先には、最近よく見かけるようになった自動改札機がある。これのおかげでキセルが激減しているとこないだニュースでやっていた。それがどうしたのかと思っていると、彼女は突き出した指先をそのまま機械の裏側へと伸ばしていった。
そして少しの間、何かをひっかくような動作をしていたかと思うと、今度は戻してきた手を俺の前に差し出す。
「これって、さっきの・・・」
まさかと思った。先ほど見かけたあのシールが親指と人差し指に挟まれている。不気味な目の模様は何かの意思でも持っているようだった。ミコはそれを黙って睨みつけている。
「なんでこんなとこにもそれが」
「つがい札ね」
「つがいふだ?」
聞きなじみのない言葉にオウム返しをしてしまう。つがいというのは、確か二つで一組になるみたいな意味だったか。では先ほどのシールとこのシールはワンペアで・・・
「あのぅすみません、もう閉めますンで」
改札機の前で立ち止まって微動だにしない俺たちに対して、駅員がさも迷惑そうな顔をしてそう言った。ミコは相変わらず、橋姫のような形相をしたままだ。何も知らない人たちから見れば、俺たちは痴話喧嘩中のアベックのように映ったことだろう。変に怪しまれて通報でもされたらひとたまりもないので、俺はミコの背中を押すようにしてその場を後にした。
〇
終電はとっくに出払ってしまったのでミコは徒歩で帰るらしい。俺は乗ってきた自転車を手で押してその隣を歩くことにした。どこからか、虫の鳴く声が一つ二つと寂しげに聞こえてくる。
「あの影はやっぱり地縛霊なんかじゃなかったんだな」
「ええ、そうみたいね。最初は地縛霊が自殺の瞬間を繰り返しているだけなのかと思った」
まさかあの影が人を連れ込むために線路に飛び込んでいたとは、誰にも想像がつかなかっただろう。
「私としたことが不覚ね。霊の気配を感じなかった時点でもっと警戒するべきだった」
彼女は申し訳なさそうな顔をして俯いている。元はと言えば、誘ったのは自分の方なのに。それにあの状況では俺とミコ、どちらが引っ張られていたかなんてわかりっこない。もしミコが連れ込まれていたとしたら・・・俺は彼女を咄嗟に救い出すことはできていたのだろうか。
そんなことを考えていたらなんだかこちらまで申し訳なくなってきた。
「ところでさ、そのつがい札って結局なんなんだ?」
気まずい雰囲気に耐えかねて俺は話題をそらすことにした。
「そのままの意味よ。二つ合わさって効果を発揮する呪符」
ミコ曰く、このつがい札はどちらか一方にのみ接触しただけでは効果をなさないのだという。両方に接触して初めて対象を認識し、効果をもたらす。
「そんなの、人を殺すのが目的なら改札機に一枚だけ貼り付ければいいじゃんか」
脊髄反射でそんなことを言う俺に、ミコは呆れた顔をして答えた。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。