「あのねぇ、そんなことしたらあの駅使う人が全員飛び降りて大事になっちゃうでしょ?第一、コレの存在がバレかねない」
札をあえて二カ所に設置することで、改札を通った上でホームの一番端まで行った人間だけを狙って殺害する。しかもあの駅はホームのもう一端側にしか出入口がないので、わざわざ端から端まで行くような人間は相当数が絞られるはず。これを仕掛けたやつはそれを逆手にとり、偶然を装って人を飛び降りさせることができた、というわけだ。そんな危ない代物を、ミコはなぜポッケなんかに突っ込めるのか。つくづく恐れ知らずな奴だなと思う。
「なあ、そのつがい札ってやつどうすんだ? 新井のじいさんにでも売るのか?」
「ダメダメ。あの人、そこらへん目利きがきくからきっと門前払いよ」
そんなキレる人とは思えないのだが、ミコは少々あのじいさんを買いかぶりすぎな節がある。
「・・・私が・・・やらないと」
「え?」
「なんでもない。ほら早く帰らないとママに𠮟られるわよ」
ミコが途端に走り出した。
「あ、おい待てよ」
俺も負けじとそれを追いかける。
「てか、お袋にはテキトーに言い訳したから大丈夫だし!」
「ほんとー? あなたのお母さんずいぶん神経質そうじゃない」
「おい人の母親に何てこと・・・っていうかうちの母親に会ったことないだろお前」
「無いけど見たことはあるわよ」
「それこそほんとー?だバカ」
「アハハハハ・・・」
……夜が下りて静まり返った街に、俺たちの笑い合う声が幾重にもこだまする。近所迷惑にならないかと心配する気持ちもちょっぴりあったけど、そんなことより、彼女の笑顔を見られることの方がよっぽど重要だった。なにせ少し久しぶりだったから、ミコが笑うのは。
だけど俺は、まだ気づきもしていなかったのだ。その笑顔の裏に暗い影が射しこんでいるということに。
























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