「それじゃあなんだ、」
「ええ、これはきっと何か」
何かあるに違いない、ミコがそう言いかけた時だった。
ピンポン―――――
「間もなく二番線に、神那岐行き最終列車が到着します。黄色い線までお下がりください」
スピーカーから雑音混じりの音声が流れる。
「来るぞ」
「ええ」
線路を伝って、列車の重低音がこちらまで響いてきた。
もうすぐそこまで、列車が迫ってきている。俺は・・・
俺はホームから踊り出すようにして、その列車へ飛び込んでいた。
〇
列車のけたたましい警笛が夜の街に鳴り響いた。
「あ、あああ、」
俺の鼻の先をかすめるようにして、銀色の車体が高速で目の前を通過していく。少し遅れて全身から嫌な汗が噴き出してきた。頭が回らない。遅れて、ミコが俺の腕をぎゅっと掴んでいることに気が付いた。
「おれ、今なんで」
「深山君」
動揺を隠しきれない俺を見て、ミコがそれを落ち着かせるようにして静かに言った。
「あなた今、引っ張られてたわ。影に」
ミコがいなければ、俺は今頃バラバラの肉塊へとなり果てていた。思わずゾッとする。その心情とは裏腹に、発車を知らせる軽快なメロディーが頭上で鳴っていた。
「ダァ閉めまーす、列車から離れてくださーい」
車掌の警告に俺はよろよろと後ずさりした。扉を閉め終え、列車がゆっくりとホームから発車していくのを俺は茫然と眺めることしかできなかった。
「ほんとは、」
ミコの言葉に俺は我に返った。振り向くと同時に、彼女は俺の横を通り抜けてホームの端まで歩いていく。
「あなたをこんな目に遭わせるつもりはなかったんだけど、おかげでわかったわ」
元凶が。そう言うと、彼女は俺の目の前で這いつくばるようにしてホームから身を乗り出す。
「なんのことだよ・・・」
俺の質問に彼女は答えない。あるいは聞こえていないのかもしれない。何かを取ろうとしているのか、もぞもぞとしていてこちらに戻ってくる気配はない。しびれを切らした俺が覗き込もうしたその時、彼女は急に立ち上がった。
「なんだそれ?」
その指先には、バッチほどの大きさをしたシールのようなものが握られている。この模様はなんだろう。いつだったか、世界史の教科書に載っていたホルスの目にも似た模様が描かれている。


























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