驚くべきことに、高齢の哀子さんのお姿が見えないと通報したのは彼女のご近所さんだった!敷地内同居をしている、哀子さんの娘夫婦ではなかったのだ・・・・・・!警察に取り調べを受けたとき、この人でなしの夫婦は【とにかく気づきませんでした】で逃げ切ったらしい。民生委員さんも、哀子さんの異変に気付かなかったという。痛ましいことに、哀子さんは骨と皮ばかりのやせ細ったお身体になられていた・・・・・・。彼女のご遺体に不自然な損傷はなく、自然死であると判断された。
哀子さんの葬儀は親族だけで行われた。彼女の境遇に同情していた人も多く、彼女の娘夫婦にお悔やみと一緒に嫌味まで言いに行ったという。この時もJ地区とK地区の中で「通報者さがし」が始まったが、疑わしい人全員が「わたしではない」と言った為、結局犯人は分からずじまいに終わった。
私の祖母も、哀子さんの逝去を大変悲しんだ。祖母は、年の近い哀子さんが孤独で苦しくてたまらない死を遂げられたことにショックを受け、数日間寝込んだ。
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哀子さんは実娘のアコさんと不仲だった。
アコさんは大変な美人で学業もよくできることから、父方のおばあさんから溺愛されて育ったらしい。このおばあさんは息子の嫁である哀子さんには辛くあたり、幼少期のアコさんに「悪いお母さんを叩きなさい」と指示していた。哀子さんのお家の近隣では、いつもお姑さんの怒鳴り声や哀子さんの泣き声が聞こえていた。しかも、幼いアコさんはおばあさんと一緒になって、周囲の人々に哀子さんの悪口を言いふらしていたのだ。
当然、哀子さんはアコさんの心優しい弟の方を可愛がるようになった。だが、哀子さんのこの息子さんは成人した後で大病が見つかった。完治しない病気だった。彼は数か月単位で出張があり、相当な激務だったこともあり、結婚をあきらめたらしい。
アコさんは自分が跡取りに選ばれたことを喜び、父方の遠縁にあたる男性とお見合い結婚をした。アコさんの旦那さんをここでは婿郎(むころう)さんとする。婿郎さんはなかなかの美男で、誰もがうらやむ優良企業に勤めていた。にも関わらず、彼はアコさんとの一人娘(哀子さんにとってはお孫さん)が幼い時に会社を辞め、家からそう遠くないところに店を構え、自営業を始めたのだ。
一方で、哀子さんのご亭主はお孫さんを猫かわいがりし、彼女の教育の為ならと援助を惜しまなかったようだ。祖父と両親の愛を一身に受け、孫娘さんは芸術や学問の才能を見事に開花させた。しかしながら、この気前のいいお舅さんが婿郎さんを増長させていったのかもしれない・・・・・・。
婿郎さんの自営業は不況のあおりを受け、あまり儲かっているとは言えないご様子だった。彼の親御さんも年とともに病がちになり、もう援助などできなくなったと思われる。しばらくの間は婿郎さんもおとなしくしていたが、哀子さんの旦那さんがお亡くなりになると、すぐにがめつい本性を露わにした。
アコさんも鉄面皮な夫に加勢し、
「あんたなんか他に行き場もないくせに!もう今月の年金がないのなら、お父さんの貯金を寄こしなさいよ!」
と、哀子さんをゆするようになったのだ!
J地区もK地区も農業がさかんな為、どのお家にも広いお庭がある。それでも、静かな夜には家族喧嘩の音声が意外によく聞こえるものだ。その際に、アコさんの聞くに堪えない罵声、哀子さんの悲鳴、そして陶器が割れたり、大きなものが壁にぶつかるような凄まじい音を聞いたと吹聴する人が何人もいた。
金銭は人間を変えてしまう。だが、その貨幣を作り出したのも人間だ。自分が生きながらえる為に過ちを犯すのはよくあることだが、世の中にはやっていいことと悪いこととがある。その中で一番恐ろしいことの一つが、自らは手を汚さずに、他の人に悪事をさせることではないだろうか?

























哀子さんの娘さんの仮名は、当初「吾子(わが子)」にする予定でした。より読みやすくするために「アコ」にしました。
沈丁花です。一部誤字や分かりにくい表現がありましたので、修正・加筆しました。これまで読んでいただいた644名の皆様、大変失礼いたしました。誠に申し訳ありませんでした。もう、どうして私はこうもそそっかしいのかなあ・・・・・・。