怖い、とは思わなかった。
むしろ、救われていた。
あの温もりが、まだここにある。
誰かが、どこかで、それを運んできてくれる。
そう信じたかった。
ある日、早めに帰宅できた。
宅配ボックスに入るところを見られるかもしれない。
そっと、玄関に潜んでいた。
18時27分。
外階段の軋む音。
誰かが、歩いてくる。
箱を抱えた、女の人。
髪が長くて、膝まで届きそうだった。
顔は見えなかった。ただ、歩くたびに、くぐもった音がした。
水を含んだような、ぬち……ぬち……という音。
わたしが覗き込むと、女は止まった。
ゆっくりと、首だけが、回った。
真っ白な顔。
目が、なかった。口も、なかった。
なのに、声が聞こえた。
「おかえり」
その声は、母の声だった。
気がつくと、部屋の中にいた。
靴を脱いだ記憶がない。鞄もどこかに消えていた。
でも、テーブルの上には、あの箱が置かれていた。
今日は、肉じゃが。
温かかった。
食べながら、泣いた。
怖さもあった。でも、それ以上に、恋しかった。
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