「去年の夏頃からですかね、部屋にいると視線を感じるようになったんです」
Sさんは京都の大学に通う男性で、入学と同時期に一人暮らしを始めたという。
奇妙な現象が起き始めたのは、大学三回生の頃からだそうだ。
住んでいた小型マンションはエントランスがオートロックになっているタイプで、マンション内で不審な人物を見かけたこともない。住民とのトラブルなどもなく、強い恨みを買うような心当たりもなかった。
「もちろん、気のせいだとは思いました。視線って、あるのかどうかよくわからないモノじゃないですか。見られている気がしても本当に誰もいなかったり、見られていても気が付かなかったり。だから最初は、なんか家にいると落ち着かないな、くらいにしか思っていませんでした」
「……ただ……なんていうんですかね。まるで視線を向けられているような……脳がキュっとなる感覚というか……それがずっと続いて……」
「今思うとやはり、視線、だったのかな、と思います」
誰もいないワンルームの部屋で、Sさんはたびたび視線を感じるようになったものの、どこを見回しても原因になるようなものは見つからなかったという。
Sさんが住む部屋は四階で、窓の外から人が覗ける高さでもない。ベランダなどもないため、どこから見られているのか見当もつかなかった。
それでも、妙な感覚は付き纏い続けた。
朝も昼も問わず、マンションの部屋にいる時にだけ、誰かに見られている気がした。
Sさんが不可解な視線に悩まされ始めてから、一週間ほど経った頃のことだ。
今度は『声』が聞こえ始めたという。
「それが、本当に気味が悪かったんです。男の声のときも、女の声のときもありました。一番聞こえやすかったのは夜です。静かだから、はっきり聞こえるんですよ。『あ』とか『が』とか……。ほとんどが短い音で、どことなく湿ったような、くぐもった感じに聞こえました」
「……声が聞こえちゃったら、もう終わりじゃないですか」
「視線だけだったら気のせいで済んだのに」
いわゆる事故物件、過去に不審な死や事件が起こった場所なのではと調べたが、それらしい情報もなかった。
Sさんは自分がおかしな奴だと思われても仕方ないという覚悟で、同じマンションに住む三十代の男性に「最近変な声がしませんか」と訊ねた。
「……そうしたら、聞こえるって言うんです。自分も確かに気味の悪い声が気になっているって、それに、視線も……。だから今度不審な音がしたら、一緒に音の出所を確かめに行きましょうって話になって。そこから声が聞こえた方向とか、時間帯とかを報告し合うようになりました」
「それからBさんとは仲良くなって。ある日の晩、仕事が終わったら一緒に酒でも飲まないかって誘われたんですよ。夜の九時くらいから、コンビニでお酒やおつまみを買って、Bさんの部屋で飲み始めることになりました」























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