母が亡くなって、三ヶ月が経った。
実家は解体され、冷蔵庫の中身も、形見の服も、全部片づけた。
ようやく生活が落ち着いてきた頃、宅配ボックスに段ボールが届いていた。
宛名は、わたしの名前。差出人には、母の名前。
手書きの丸い文字。すこし滲んでいた。
開けると、ふわりと匂いが広がった。
甘めの筑前煮。こんにゃくの下に隠れた、ごぼう。
母の味。見間違えるはずがない。
思わず箸を伸ばした。口の中に、ぬるい温度と、しょっぱさと、懐かしさが広がる。
涙が出た。味は、確かに、母だった。
けれど──
「ねえ……これ、どうやって送ったの?」
スマホの中の連絡先は、もう呼び出せない。
親戚に訊ねても、誰も知らないという。
実家の住所にはもう誰も住んでいない。
その夜は眠れなかった。
次の週。
また、同じ箱が届いた。
今度は、おでん。大根がやわらかく、練り物には、母のよく使っていた「銀杏はんぺん」が入っていた。
見たことのあるタッパー。取っ手の割れ目も、知っている。
箱には何も書かれていない。ただ、白い紙にひとこと。
《おかえり》
それから、毎週土曜。
必ず、同じ時間に、同じ箱が届いた。
きんぴらごぼう、豚汁、ひじき煮、たまご焼き。
どれも、母の味。
レシピも覚えていないのに、舌が知っている。
そして箱の底には、いつも「おかえり」の紙。
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