大学三年の夏。
同級生の秋山が、ある日ぽつりと「面白い場所見つけた」と言った。
郊外の山にある廃旅館。
地元の人でも知らないような小道を抜けた先にあり、地図にも載っていないという。
「ほんとにヤバいらしいんだけどさ、行ってみたくて」
僕ともう一人、林田を誘って、三人で出かけることになった。
夏の終わり。曇天。
木々のざわめきが湿っぽく、登山道の奥は獣道のように細かった。
やがて、木々の切れ間から、屋根の崩れた三階建ての建物が現れた。
元は温泉付きの旅館だったらしい。
「ほら、玄関の意匠、なんかいい感じじゃない?」
秋山は嬉々としてスマホを構える。
中は崩落が進み、廊下には瓦礫が散らばっていた。
畳は腐り、壁のカビの匂いが鼻に刺さる。
二階の大広間に足を踏み入れたときだった。
がらんとした空間の、中央。
ぽつんと、一脚だけ、木の椅子が置かれていた。
まるで“そこに座っていたもの”だけが退けられたように、そこだけ空気が違った。
床の埃も、その椅子の周囲だけ不自然に少なかった。
「うわ、絵になるな……」
秋山が無言でスマホを構えた。
「撮んないほうがよくない?」
林田が小声で言ったが、止める前に、シャッター音が三度響いた。
椅子はただの椅子だった。
誰も触れず、近づかず、それで済んだと思った。
一週間後、秋山が失踪した。
当日の夕方までは、普通に大学にいた。
講義も出て、LINEにも反応があった。
だが夜、バイト先に現れず、電話も不通。
警察も動いたが、部屋も財布もスマホもそのまま残っていた。























怖い