三枚目は……海だ。砂浜をバックに二人は並んでいる。これも場所の特定はできないな。ここからだとお台場とか湘南とかが割と近いけど、砂浜がある海辺なんて日本にはたくさんあるからな。
いや、別に場所の特定なんてしなくてもいいだろ。気になってるのは――そう、この二人の関係性と、それと、この男の傷だ。
さっきの二枚目は頬に絆創膏を貼っていたけれど、今度は目元に大きなガーゼが当てられている。ものもらいだったらもっと眼帯みたいな感じになるだろうし、こんな風にガーゼを使わないだろう。なんか、殴られたっぽい感じだった。旅先で喧嘩でもしたのだろうか。
旅行中のトラブルってほんと気分が一気に萎えるんだよなぁと感情移入しかけつつ、四枚目に視線を移した俺は、鳥肌が立ってしまう。
一瞬、ウインクしてるのかと思った。
男が片目を閉じてたから。でも、明らかにそうではなかった。
普通、目を閉じたら眼球の膨らみがあるだろう。それがなかったんだ。
眼窩に何も入ってないのが明らかだった。
でも男は笑ってる。おばさんは無表情。
背景は山っぽい感じで、どこかで登山でもしたのかもしれないけど、最早そんなのはどうでもよくて、見るのが怖いけれど、次の写真を見ないわけにはいかなかった。
五枚目。男の両耳がなかった。正面を向いているから気付きにくいのだけれど、しっかり見れば明らかに違和感がある。
耳がないと、人間の輪郭というかシルエットはこんな風になるのかみたいな学びは一瞬で霧散して、俺の目も脳みそも六枚目にリソースを割く。
目も、耳も、鼻もなかった。
顔のパーツは全部なくなっていた。
男の顔は血塗れで、如何にもたった今、この場で切り取られましたとでも言いそうなくらいに鼻があった辺りからは鮮血が噴き出しているようで、先ほどとは逆の眼窩からも血が流れていた。
何が起きてるのかなんて、想像がつくはずもない。
この二人の関係はなんなのか。
男をこんなにも傷付けているのは誰なのか。
おばさんは――この女は一体何を思ってこんな写真を撮っているのか。
俺には見当もつかなかった。
自然と七枚目に手が伸びる。
六枚目の写真が大部分に重なっているので、これをどけないと見れないのだ。
俺は、恐る恐る写真に触れる。
「お客さんですか?」
比喩ではなく、本当に心臓を吐き出すんじゃないかってくらいに俺は驚きのあまり震え上がった。
突然後ろから中年女性の声で、そんな風に言われてしまえば、俺でなくても心臓が止まるくらいに驚くだろう。
「お客さんですか?」
狼狽えながら口を開けない俺に、女は質問を繰り返す。
「あ、いや……はい」
曖昧に答えるしかなかったのは、女の表情のせいだ。
写真と同じ、無表情。
怒ってたり、不審感全開だったら、すぐに立ち去っただろう。逆に笑顔だったらこちらもフレンドリーに話したかもしれない。
でも、女の顔には表情と呼べるようなものはなくて、感情と呼べるものを読み取ることは不可能だった。
























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