逃げられたと思っていた。
けど実際は違った。
あいつらはずっと俺らの事を見ていたんだろう。
あの日の腐敗臭まで思い出し、俺はその場で吐いた。
以上がこの話全体のあらましだ。
嫁さんがさ、俺に言うんだ。
「この子は産んであげなくちゃいけないの。
二回も死ぬなんて、可哀想でしょう。
私だけがこの子のお母さんなのよ……」
自分で自分に言い聞かせてるように感じたよ。
優しさというより、諦めみたいなそんなものを感じた。目の焦点もあってなくてな。最近は会話も噛み合わなくなってきた。
おかしくなったのは嫁さんだけじゃない。
あのエコーを見て以来、耳もとがうるさいんだ。
あいつらの声がずっと耳の奥で響いてる。
「うんでくれてありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう………」って
嫁さんの出産の日。
耳もとの声は止んだ。静かになった。
分娩室のドア越しに助産師の絶叫が響く。
それと同時におれはあの日の「産声」を聞いた
ああ、やっぱり来たんだ。
産まれてしまったんだ。
俺はまだ”それ”に会えていない。
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