「警察です。バッグの中、見せてもらえますか?」
今日もまた、私は声をかけた。
警官の制服を着て街を歩く。
気弱そうな人間を選んでは職務質問をする。
「何か怪しいもの、持ってないですよね?」
「どちらに行かれるんですか?」
ただそれだけの会話なのにゾクゾクする。
権力を持ったふりをするその一瞬だけ、私は何者かになれる気がする。
私は本物の警官じゃない。
着ているのはただのコスプレ衣装。手帳も偽物。
もちろん、違法だってことは知ってる。
でも……もうやめられなかった。
捕まるかもしれないというスリルが、何にも代えがたい高揚感をくれるのだ。
私が“職質ごっこ”をするのは決まって深夜。
この時間帯は面白い人間に出会える。
酔っ払い、薬物を持ってる奴、何かを隠してる人間…
その日も、いつもと同じつもりだった。
深夜0時。コンビニ前。
終電を逃したのか、ぐったりとうなだれたサラリーマン風の男に声をかけた。
「警察です。少しお時間、いただけますか?」
男はにこりと笑って、軽く頭を下げた。
「お仕事ご苦労さまです。……あれ? すみません、どちらの署のご所属ですか?」
その言葉に息が止まりそうになった。
バレた……?
動揺しながら、ポケットから偽の警察手帳を取り出す。名前も所属も全部でたらめ。
男は手帳を一瞥すると、顔色一つ変えず笑みを保ったまま言った。
「実は私も警官でしてね。このあたりで“職質が多すぎる”って苦情が入ってたんです。
でもこのエリア、うちの交番の管轄でね。つまり職質してるのはうちの警官じゃない。
正体を調べようとしていた矢先で手間が省けて良かった。ちょっとついてきてもらえる?」

























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