餓鬼道の女
投稿者:LAMY (11)
藤城さんは、顔がいい。
いわゆるジャニーズ系の甘いマスクをしており、声もまるで声優のようによく通る。
そんな藤城さんは当然のように女の子からよくモテた。
そして彼自身そんな自分の美点に自覚的で、寄ってくる女の子たちを取っ替え引っ替えしながらバラ色の日々を送っていたそうだ。
「モテるって本当便利なんですよ。お金を融通してくれる子もたくさんいましたし、欲しいものがあれば少し匂わすだけで手に入る。
今思えば馬鹿な考えですけど、俺の人生はこの先死ぬまでずっと安泰なんだろうなあって、当時は本気でそう思ってました」
合コンに出れば席に座っただけでどよめきが起き、道を歩いているだけで「あの人かっこよくない?」と小声で話すのが聞こえてくる。
自分の頼みを何でも聞く女性が常に複数人おり、中には自分は藤城さんの本命になれないと分かっても、それでも側にいたいと健気に貢ぎ続ける娘もいたらしい。
今考えるとずいぶん酷いことをしてたと思います、と藤城さんはばつが悪そうに語った。
しかしそんな彼も今は某一流企業に勤め、女遊びは辞めて真面目に社会人をやっている。
未だに言い寄ってくる女性はひっきりなしに現れるそうだが、今ではむしろ女性に対して苦手意識すらあるのだという。
「大学三年の頃でしたね。いつものように合コンに出て、場を盛り上げつつもどの子を持ち帰ろうか品定めしてたんです」
藤城さんの言を借りると、彼にとって合コンや飲み会の席は「無料の風俗みたいなもの」だったという。
何せまず負けることがない。自分が気合を入れなくたってあちらからアピールしてきてくれる。自分はその中から一番好きな子を選んで持ち帰るだけでいい。
その日も流れはそんな感じで、露骨に自分を狙っているなと分かった女の子の中から、ある小柄な女性を選んだ。
既に大学を出て社会人になっている年上ではあったがよく笑う人で、下世話な話だがコンパの最中からスキンシップが多かったことが藤城さん的には高得点だった。
背の低い年上というのもなんとなく特別感があって、悪くない。
その娘──名を高嶺さんとしておく──を連れて店を出た彼は、彼女の部屋にお邪魔することになった。
「話も合うし、距離感も近いし……あと声が──アニメ声っていうんですか? すごく綺麗な声だったんですよ。腕に抱きつかれながら歩いてる時は、正直ニヤけてましたね。こりゃ良い子を釣れたぞ、って」
アルコールの酩酊感と湧き上がる性欲によって火照った身体。
それを引きずって辿り着いた先は、閑静な住宅地の片隅にぽつんと建ったアパートだった。
──廃墟のようなアパートだったという。
壁には蔦や錆が這い、二階に上がる外階段は一歩踏み締める度に耳障りな軋みをあげる。
ドアの建て付けも悪いのか、開けるのにも身体で無理矢理押し開ける必要があるようだった。
とはいえ、その時は酔いも手伝って「ボロいなー」くらいにしか思わなかったそうである。
だがそんな藤城さんも、部屋の中に広がる光景を目の当たりにした時は流石に息を呑んだ。
「まず、臭いんですよ。生ゴミの臭いがするんです。でも当然なんですよね、室内はゴミでほぼ足の踏み場もない状態だったので」
散乱したゴミ袋や惣菜の容器、ペットボトルに酒の瓶。
割れた皿が片付けもせずに放置されている始末で、酔いも恋も一気に冷めるに足るような「汚部屋」がそこにはあった。
正直藤城さんは引いていたが、幸いと言うべきか、ベッドの周りはそれなりに片付いているようだった。
臭いのは多少我慢すればいいかと割り切って、彼は彼女に誘われるままにベッドへ上がり、ズボンを下ろし……。
地獄の様相を呈した部屋の中で、早速情事を始めたのだという。
面白かったです
こええ…
すげぇ語彙力。
絶対この人プロでしょ。
表現力や言葉選びが一般人のそれじゃない。
文章力に意識が引き込まれて、内容よりもどれだけ引き出しがあるのだろうとそっちの方が気になってしまった。
次回も楽しみにしてます。
いやいやすごい怖いし文章が上手すぎる
「生きてる人間が一番怖いなどと月並みなことを言うつもりはないが。」この一文がナチュラルに出てくるのは良いです。怪談好きを前にして「やっぱり一番怖いのは人間だよ。」とか言い出す人は基本信用ならないです。
怖かった。風呂場で子供の死体発見する奴と似た話っぽいが。怪異と目があっても最後まで致せるのすごいなww
コメント欄の異様な褒めっぷり含めて気味が悪い