奇々怪々 お知らせ

不思議体験

入月麗奈さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ベージュの伝言
長編 2025/07/11 19:08 2,691view
2

あ、でも麻美とはちょっとだけいざこざというか、不穏な感じになったかな。私は第一志望の高校に受かったけど、麻美は行きたかった高校に行けなかったから。なんか、塾を紹介した麻美が落ちて私が受かったことが気に入らないみたいな感じの空気を麻美から感じて、でもまあそう言われてもというか、そんなふうに妬まれてもって感じで往なしてたら、なんとなく疎遠になってたんだよな。バイトを始めたのは意外と私に会わない言い訳作りでもあったのかも。

まあ何にしても、私だけは変わらない日常を生きていて、毎日が暇になってしまう。

仕方ないからたまには勉強でもするかーとノートに落書きをしていると、あの手帳が視界に入った。
ああ、そういえばあんなのあったなーとか懐かしい気持ちで手に取る。

真っ白なページはなんの軌跡にもなっていなくて、点々と、申し訳程度に書かれた予定が、逆に虚しさを感じさせる。

前は気づかなかったけど、どうやらこの手帳は三年分のカレンダーが載っているみたいで、今年の、というか、今年度のところは当然全て空白なんだけど、……空白なはずなんだけど、書いた覚えのない内容が、私の字ではない文字で記載されている。

「桐山に告白された」

6/4のカレンダーの所にそう書いてあった。

桐山は高校のクラスメイトの男子で、なんか女好きみたいなチャラっとした感じの奴なんだけど、あれ、ということは、私はその日に告白されるのか?

そういえば、以前もなんか未来日記的なことがあった気がするけど、あれって結局なんだったんだろうなとか思いながらいつものように登校した6/4に私は告白される。もちろんというか、相手は桐山だった。丁重にお断りしてから、あの不思議な手帳のことを考える。

でも考えたって仕方ないし、やっぱりなんの答えも出なくて、私はそれから毎日手帳を確認するようになった。

「風邪を引く」「足を捻る」「火傷する」みたいな、怪我の予報は漏れなく的中し、じゃあ反対にサプライズハッピーなことはあるのかって言えば、ない。一度も。

まあ、その辺も敢えてポジティブに捉えるなら、予め怪我や病気が分かってるなら、心も体も準備ができるとも言えるし、そもそも楽しいことなら知らなくても全然OKだ。いくら起こってくれてもいいんだし。

で、なんとなく当たり前のように、誰が書いてるのかも知れない手帳の内容をすっかり信じ込んで、まるでテレビやネットで天気予報を確認するかのように毎日寝る前に見ていた私は、過去にないほど眉間に皺を寄せてしまう。

「お母さんが妊娠する」

そう書いてあったからだ。

ん~~???

お母さんはもう50歳を過ぎてるんだけど。
30代半ばで初産を経験したお母さんは私を産んだ時に、二度と出産なんてしないと大声で宣誓したらしいのだけど、まさかあれから16年が経って心変わりでもしたのだろうか。

いやそもそも50歳で妊娠できるのかな?

まあできないことはないのかな。よく分かんないけど。親子で生理の話なんてもう随分してないしなーとか思いながらリビングに行ってお母さんのお腹を見ると、別に膨らみもなくて、そりゃそうだよなって気づく。だって予定では明後日の日付だったから、今はまだ懐妊してないはずだ。というか、流石に今回ばかりは外れるだろうな手帳予報もなんて暢気に構えてたら、一週間後位から明らかに腹部の膨らみを見せるお母さん。

えーーー、一週間でこんなに大きくなるの? 赤ちゃんてすげーって、私はちょっとはしゃいでしまうけれど、お父さんは難しい顔をしながらお母さんを叱責する。

それなりに察しの良い私は、ああ、お父さんはこの妊娠に心当たりがないんだなと気づく。親のセックスなんて想像もしたくないけど、確かにそんな雰囲気は二人からは感じないからな。

「浮気してんのか?」

そう詰め寄るお父さんに、「んなわけないでしょ」とテレビを観ながら適当に返すお母さん。
いや、なんかカッコいいけど、そこはもっとお父さんと向き合ってあげなよって思う。

それから二人はしょっちゅう喧嘩みたいな感じになるけど、約一ヶ月後の日曜日に「お母さんが出産する」と書かれている手帳を見て、あーあ、結局生まれちゃうのかーとか、どこか他人事な私を余所に、お父さんは泣きながらその生まれてくる新生児を我が子として育てることをお母さんに誓う。お母さんはなんかあんまり興味なさそうというか、なんなら私よりも他人事みたいな感じで「そうしよっかね」みたいに投げやり感満載だった。

で、やっぱり予言通りの日に陣痛が始まったお母さんを、お父さんは車の後部座席に優しく乗せて、私は助手席に乗り込んで、慎重ながらも荒々しさを感じる運転で近くの病院へ向かう。

流石プロのお医者さん達は、鮮やかな連携プレーで、いきなり訪れた妊婦を手術室というか出産室?みたいな所に担架で運び込んで、ドラマとかでよく観る「はい、いきんでー!」みたいなことを言われながらお母さんはラマーズ法なのかなんなのか、独特の呼吸を見せていて、無菌服的なものを纏いながらお母さんの傍らで見守る私とお父さんは、お母さんに頑張ってと声をかける。

たったの数分後に、お母さんの股から新たな生命が誕生した。

2/3
コメント(2)
  • なんか説明出来ないけど、怖い。ゾクゾクする何かを感じた。この人の3作、全部そんな感じで凄く良い。好み。続けて欲しい!

    2025/07/11/20:54
  • どこにたどり着くかわからない感が良かった
    ポップな絵柄のホラー漫画にしたい

    2025/07/11/21:38

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。