でもそこにいた誰一人として、おめでとうとかお疲れ様みたいな、祝福も労いも口にはしなかった。
「なに、それ」
私の言葉で、止まっていた室内の時が動き出したかの如く、医師はその産まれたての物体を看護師に渡す。
それは、明らかに人間ではなかった。
奇形児とか、未熟児みたいな話ではなくて、人間というか、ぬいぐるみという感じだ。
セサミストリートのエルモという、赤い毛むくじゃらのモンスターがいるのだけれど、あれに似ていた。
全身真っ赤で、毛に覆われている。初め、血塗れなのかな?とか思ったけど、全身を覆う真っ赤な毛は、血液の色ではなく、なんか、如何にも人工的に作られた色というか、鮮やかなのにどす黒いというか、なんとも形容し難いもので、みんなそれを見ながら棒立ちするしかなかった。
顔は、不気味に歪んでいて、両目を閉じてはいるけれど、口元はニヤニヤ笑っているみたいな感じだ。
ベテランっぽいお医者さんすら固まってしまうんだから、当然ド素人の私たち親子はそれ以上にガチガチに固まっていたのだけれど、意外な人間が口を開く。
「殺せ!」
お父さんだった。
聞いたこともないお父さんの怒声と、これ以上ない残虐なワードに、私はお母さんが産み出したエルモを見た時よりも身が竦んでしまう。
もう一度「殺せ!」と叫んだと思った次の瞬間、ガバっと起き上がったお母さんが、看護師の抱えるその真っ赤な生物の顔面に握り拳を上から叩き込んだ。
それまで一切の産声を上げなかった赤い生物は小さく「みぎゅ」と唸り声を上げ、頭から地面に落下する。
ベッドの反対側にいた私の位置からはどうなったか見えなかったけど、慌てて拾い上げた看護師の腕の中の生物は、頭から真っ黒な血液みたいなのを流していて、ああ、頭割れちゃったのかなっていう心配をしてたのは多分私くらいだったと思う。
なんかうちの両親は殺意満々だったし、お医者さん達は未確認生物との邂逅になんかちょっとだけワクワクしてる感じもあったから。
これ以上傷物にされるわけにはいかないとばかりに、早く連れて行けと指示を出された看護師は、タオルに包んだその生物を抱えて出ていってしまう。
その後、「大人だけで話すから」と私は待合室で一人待たされ、念の為一日検査入院することになったお母さんを残して、私はお父さんと帰宅する。
帰りの車中、終始険しい表情だったお父さんに話しかけることはできず、謎の生物のことも聞けなかった。
翌日退院したお母さんは、まるで昨日のことがなかったみたいに――というか、妊娠のこと自体をなかったことにして、我が家ではあの日の話はなんとなくタブーとなり、誰も口にはしない。
でも、私は、自分の血を分けた母親の身体から化け物が出てきたことよりも、お父さんの「殺せ!」ってセリフと表情が忘れられなくて、あれから一度もお父さんの目を見れないし、手帳は捨てた。
























なんか説明出来ないけど、怖い。ゾクゾクする何かを感じた。この人の3作、全部そんな感じで凄く良い。好み。続けて欲しい!
どこにたどり着くかわからない感が良かった
ポップな絵柄のホラー漫画にしたい