始まりは、一人の老人の死だった。
だが、それが惨劇の引き金であった事を、今は誰も知らない。
当然だろう。身寄りも資産もない一人の老人の死など、誰も気にしないのだから。
…
その老人は、山奥の廃村で保護された。
裸同然のぼろ切れを纏っただけの痩せた老人は、その介護老人施設に保護された。
…悲劇はそこから始まった。
重度の認知症を患っていたのだろうか、その老人は浮世離れした言動を繰り返し、世間の常識が通じなかった。
又、動物や植物に話しかけたり、更には誰もいない空間に向かって呟き続けたりと、その行動は常人には奇異なものとして映った。
さらに、徘徊するかのようにふらりと施設外に無断で出て行ってしまう事もあった。
…
ある時、常時の人手不足に加え、更にこの老人の世話に手を焼いた老人施設の若い男性介護士は、徘徊の予防を理由に老人を施設の個室に隔離し自由を奪った。
それだけでは飽き足らず、治る事の無い老人の奇異な行動に苛立ちを覚えた介護士は老人に過剰な虐待を行い続けた。
「早く食えよ! 時間がねぇんだ!」と言って口に食事を捩じ込み、
「人手がないんだ! 手間かけんじゃねえ!」と言って汚物にまみれたままの老人を放置し、
「うるせぇよ! 俺は忙しいんだ! 静かにしてろ!」と言って、老人を殴り付けた。
その介護士は、捨てたのだ。
誰かの為に努力できる己自身を。
捨てざるを得なかったのだ。
その心は、ある意味、既に死んでいたのかもしれない。
…
そして、
老人は、
死んだ。
鍵をかけられ隔離された個室で、その老人は一人孤独に、冷たく寂しい寝床の上で、死を迎えた。























ストーリーがめっちゃ面白い!
エグい、リアル、本当に怖いのは人間、そして哀しい。
この人の作品毎回恐すぎる