「その件だが…、人員の増員は、人件費の都合で先送りになった。最近は収入減に加えて、残業代の増加で経営が厳しいんだよ。」
「え? なんで…。」俺の手が止まる。落胆どころではない。目の前に絶望がちらつく。
「現場の人間の熱意と創意工夫で対処してくれ。運営側からもそう言われている。君も社会人なんだから経営の大切さは解るよね。」
「くそ! もう俺もやってられませんよ!」
憤る俺に、上司は冷めた視線を送りながら、
「君はやりたくてこの仕事を選んだのだろう?」
と笑みを浮かべながら言葉を返す。
「は?」
「だったら、やる気があれば出来る筈だ。」
「ぐ…。」
やる気の問題じゃない!そう言い返したくなる俺に、課長は更に言葉を重ねた。
「それに、目の前の困っている年寄りを放っておいて、君は平気なのかね?」
「うぅ…。」
「介護は愛情が大切。ここに入社する時、君が言った言葉だ。私も同感だよ。それに、 このフロアの主任は君だろ。 なんとかするのが君の責任だ。」
感情の無い笑顔を浮かべながらそう告げる課長の声は、冷たかった。
課長が去った後。
力の無い眼でシフト表を凝視しながら、
「はぁ…。」
俺は深く溜め息を吐く。
明日は恋人の誕生日。食事の約束をしていた。プレゼントも渡す予定だった。
けれど…。
どうやら、約束は守れないようだ。
…
…
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ストーリーがめっちゃ面白い!
エグい、リアル、本当に怖いのは人間、そして哀しい。
この人の作品毎回恐すぎる