奇々怪々 お知らせ

不思議体験

アイスノ人さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

足音
長編 2025/05/01 13:00 6,468view

「誰なんだ、あいつは」

 問いただすと、Iは震える声で答えた。

「友人の知り合い……結婚してる人なの……」

 私はもはや話し合いをする気にもなれなかった。弁護士を通じて男には内容証明を送り、Iの友人も含め、慰謝料を請求する準備を始めた。

 Iからは「やり直したい」という申し出が何度もあった。義理両親からも説得があった。だが、私の心はすでに離れていた。

 最終的に、I慰謝料の請求はせず、代わりに財産分与なしで離婚が成立した。

 Iは最後まで「お願い……やり直したい」と言っていた。だが、私にはもうその言葉が響かなかった。

「愛情が、信頼が、一度壊れたら、もう元には戻らない」

 そう言い残し、私たちは別れた。

 離婚後、私は仕事に打ち込んだ。考えることから逃れるように、毎日遅くまで働いた。

「自分を責めるな」と周囲は言ってくれた。だが、自分の中の空虚さは埋まることがなかった。

 やがて月日が経ち、季節が流れていった。

 梅雨が明け、まぶしい夏の日差しが照りつける中、私は息子の墓前に立っていた。

 年に一度の命日。墓石を撫でながら、静かに語りかける。この日だけは、息子と向き合う時間として、大切にしていた。

「元気にしてるか…」

8/12
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。