「誰なんだ、あいつは」
問いただすと、Iは震える声で答えた。
「友人の知り合い……結婚してる人なの……」
私はもはや話し合いをする気にもなれなかった。弁護士を通じて男には内容証明を送り、Iの友人も含め、慰謝料を請求する準備を始めた。
Iからは「やり直したい」という申し出が何度もあった。義理両親からも説得があった。だが、私の心はすでに離れていた。
最終的に、I慰謝料の請求はせず、代わりに財産分与なしで離婚が成立した。
Iは最後まで「お願い……やり直したい」と言っていた。だが、私にはもうその言葉が響かなかった。
「愛情が、信頼が、一度壊れたら、もう元には戻らない」
そう言い残し、私たちは別れた。
離婚後、私は仕事に打ち込んだ。考えることから逃れるように、毎日遅くまで働いた。
「自分を責めるな」と周囲は言ってくれた。だが、自分の中の空虚さは埋まることがなかった。
やがて月日が経ち、季節が流れていった。
梅雨が明け、まぶしい夏の日差しが照りつける中、私は息子の墓前に立っていた。
年に一度の命日。墓石を撫でながら、静かに語りかける。この日だけは、息子と向き合う時間として、大切にしていた。
「元気にしてるか…」
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 8票


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。