某国にあるとある動物園へ観光へ行った時の話。
私は家族で海外へ旅行をしていた。息子が中学校を卒業した記念にだ。そして三泊四日の最終日、私たちはホテルの近くにあった〇〇動物園に行くこととなった。
その動物園は規模でいうと上野動物園くらいはあったと思う。ホテルの10階からはもちろん、そこら辺を歩いていても動物園の目玉である展望塔が見えるくらいには巨大だった。分かりやすく例えると、千葉県からスカイツリーが見えるだとか、神奈川から富士山が見えるだとか言うような感じで、確かに私たちはワクワクしていた。
だが、レンタカーをいくら走らせても、遠くに見える動物園は近づいてこなかった。カーナビを見ても近づいている気配すら感じない。道路標識は某国の母国語が使用されていて、数字しか見えなかった。
それでも諦めずカーナビに従っていると、やがて廃れた動物園のような場所に出た。そこには展望台もなかったが、入口のポスターにぽつりと
「ようこそ、〇〇動物園。ぜひお入りください」
というような趣旨の言葉が書かれていたので、とりあえず入ってみることにした。
チケット売り場はなく、入ってすぐ動物たちがいた。最初のコーナーはアフリカコーナーで、動物園の主役たちはだいたいここで見られるようだ。
だが、私たちはすぐに異変に気づいた。動物たちが、「ボォ、ボォ」としか鳴かないのだ。キリンも、象も、うさぎも、動物園の中のカラスも、みんな全く同じ低い声で、「ボォ、ボォ」と鳴いている。
彼らは皆腐りかけの餌を貪っていた。一部の生物は共食いをしていたが、痩せこけた彼らの死体では大して腹の足しにはならないようで、骨だけになった自身の仲間を見つめては寂しそうに「ボォ、ボォ」と鳴いた。
動物園の奥に進んでいくと、大きなスタッフルームを見つけた。ここには誰かいるかもしれないと思いノックしたが、返事はなかった。
諦めて帰ろうかとした時、どこからかまた「ボォ、ボォ」という鳴き声が聞こえてきた。すると、スタッフルームのドアが内側からド!ド!と叩かれた。ドン!という感じではなく、どちらかと言うと殴っている感じに近かったと思う。そのうち、ドアノブをガチャガチャと捻り出した。が、10秒も経てばそれは静かに止まった。
私たちはもうパニックで車に戻った。「ボォ、ボォ」という鳴き声が聞こえる度、私たちを嘲笑うかのように生ぬるい風が吹いた。
戻ってから表示されたカーナビには、何も表示されていなかった。ここは道すら通っていない山だと表示されていた。本当の〇〇動物園は、5kmも前に通り過ぎていたようだ。私たちは急いで来た道をもどり、そこから空港へ向かった。
もう一年前の話だが、「ボォ、ボォ」という鳴き声が忘れられない。検索しても同じような体験談は出てこなくて、今でもなんなのか分からない。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。