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期待の新人さんによるにまつわる怖い話の投稿です

哭礧薨子
長編 2025/03/01 17:19 2,272view
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ある日の仕事帰りの事だった。その日は会社がサイバー攻撃の被害に遭い、社員総出で残業していた。確か会社を出た時点で9時は回っていたと思う。

ヘトヘトと都会のビル群を歩いていた。大して人が多くもないのに、ビルだけは立派なもんだ。そう考えていると、道路の端になにか落ちているのに気がついた。

いかにも金持ちのものという感じの革財布だった。拾い上げてみると文鎮のように重く、中に何が入っているのか気になった。普段の私は、こういった財布は交番へ届ける派だ。しかしこの時の私は疲れていたのか、はたまたこの時から目をつけられていたのか、私はその財布を盗ってしまった。

その財布をカバンに隠して、その足で電車に乗り込んだ。罪悪感なんて微塵もなく、財布の中に何円入っているか、それだけ考えていた。

───

最寄り駅に着いた。この街は一応東京にはあるが人通りは少なく、駅前の広場でさえ10人もいなかった。

改札にSuicaをかざし駅を出ようとしたその時、モデル体型のOLがこちらを見ているのに気がついた。あまりにも美しい女性だったので、私はうっとりとその人のことを見てしまった

そんな中、ある違和感に気がついた。この女性の目には生気がなかった。死んだ魚の様な目で、こちらをじっと見ている。どこへ行っても、どこから見てもずっと目が合うのだ。少し気味悪く思ったが、ただ目に生気がないだけの女の人だろう。そう思い、視線を女性から前へ向けた。

周りの人が、全員こちらを見ている。老若男女問わず。なんなら、タワマンのベランダから見ている人もいる。駅員も、コンビニの店員も、みんなこちらを狂ったように見ている。

気持ち悪くて、一刻も早くこの場から逃げ出したいのに、足が動かない。3秒ほど経った時だった。突然周りの人が、ボソボソとなにか呟き出した。皆同じことを言っていたように思える。

急に後ろから肩をトンと叩かれた。さっきのOLだった。右目は私の方を、左目は私のカバンを見ていた。ずっと平坦な声でボソボソと何かを喋っている。さっきはただの美人に見えたのに、今となっては化け物にしか見えなかった

気づいた時には走れるようになっていた。広場から家まで、一目散に走り抜けた。マンションのベランダにいる人、通行人、見回り中の警官、全員がこちらを見ている。泣きそうになりながら、急いで自宅のマンションへ逃げ帰った。

───

寝室のベッドに横たわった。さすがにここでは視線を感じなかった。財布を開く気力さえほぼ残っていなかったが、何故か開かなければいけない気がして中身を確認した。

ベッドに寝っ転がりながら、財布を開封した。そこには1円も入っていなかった。残念だったが、この財布自体高値で売れるだろう。そう考えて中身を確認していると、さっき見た時には気づかなかったファスナーの存在に気づいた。

そこには木の板が入っていた。板と言うより札だろうか。余程昔の木の板なのか一部が黒く変色し、カビが生えている。それには子供のような字で「哭礧薨子」と書かれていて、兜をつけた子供の絵が彫られていた。

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コメント(1)
  • 学校の怖い話をつくってください。

    2025/03/03/17:55

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