【帰還】-事件記者 朽屋 瑠子-
投稿者:kana (216)
「あのぅ、チーフ・クチヤ」
「ハ、ハイ!!なんでしょう」
「スティングレイ一等兵曹です。その、先ほどナイフを投げたのは自分であります」
「あぁ、スティングレイ一等兵曹!ありがとうございます。あとでお返しに伺おうと思っていたんですが・・・コレ、お返しします。大変助かりました」
朽屋は太ももに差していた例の黒いナイフを鞘と共に返した。
「いえ、お役に立てて光栄です。またいつでも呼んでください」
「じゃあ、今。せっかくだから1杯だけ乾杯しましょう」
「ハハ、ありがとうございます」
こうして、ミゲル・キースの兵士たちは束の間の休息に就いた。
翌日。
ミゲル・キース下層甲板から、1機の特殊潜航艇がクレーンに吊り下げられ、海に出された。
円盤のように平たい機体に、大きな翼が付けられ、一見するとマンタ(イトマキエイ)そっくりな機体である。これは、アメリカ国防総省直轄の組織「DARPA(国防高等研究計画局)」が研究開発しているAUV(自立型無人潜水機)「マンタレイ」を、朽屋が搭乗できるように改造したものだ。また、この機には軽量ハイブリッド魚雷Mk54が2本装備された。
マンタレイの上部には透明なドームのようなコックピットが用意され、そこに朽屋がバイクにまたがるかのような姿勢で搭乗している。
本来ならばマンタレイは無人でAIによる自立行動ができるため、何日も何週間も水中にいて作戦行動ができるのだが、今回は有人でもあり、作戦行動は2時間と限定される。
初めてだというのに、海中で自由に動き回る朽屋。もっとも、操縦はAI任せにすることもできるので朽屋は雷撃にのみ専念することも可能だ。
通信を遮断したまま、朽屋は2時間の水中機動訓練を終えた。
周辺海域に異常なものも感知されなかった。
この後も米海軍による捜索は続行されたが、この年は例年よりも多くの台風がこの海域に押し寄せ、7月にはケーミーとプラピルーン。8月にはジョンダリ。9月にはヤギ、バビンカ、プラサン、ソーリック、クラトーンと、怒涛の如く押し寄せる台風に、ミゲル・キースも一時退避させられる日も増えていた。
2024年10月20日
米海軍第7艦隊所属のミサイル駆逐艦「ヒギンズ」と、同伴していたカナダ海軍のフリゲート艦「バンクーバー」が、南シ海のT湾海峡よりの海域で巨大な未確認物体を水中に感知。
その情報は待機していたミゲル・キースにすぐさま報告された。
朽屋にも出撃準備の命令が下りた。
準備に奔走するマンタレイ・チームに、一人の兵士が訪ねてきた。
「チーフ・クチヤはいらっしゃいますか?」
「朽屋ここでーす! あぁ、スティングレイ一等兵曹。来てくれたんですか」
「はい、出撃すると聞きましたので、よろしければこれをお供にお連れください」
そう言って彼は黒いチタンのナイフを差し出した。
「これは・・・ありがとうございます。お借りします」
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