【short_98】社長
投稿者:kana (210)
仕事で地方に出張していた時の事である。
下請け工場で重大インシデントが発生したと本社から連絡があり、一番近くですぐに行ける私が工場の担当者と直接会い、今後の事態について打ち合わせをすることになった。
彼らとはいつも工場近くの喫茶店で落ち合って、軽く打ち合わせをして終わり、ということをよくやっていたので、今回もそのつもりで喫茶店で待っていた。
先についてコーヒーを注文していると、下請け工場の社長が汚れた作業着のままやってきて、着くなりテーブルに手をついて謝罪してきた。
「今回の件、本当に申し訳ない。ワシらのミスです」
社長は沈痛な面持ちで頭を下げた。「いやいや、顔を上げてください社長」
そうでも言わないと土下座でもはじめそうな勢いだった。
そうこうしていると、喫茶店のドアが開いてカランカラーンとベルが鳴り、
下請け工場の部長と課長も慌てて入って来た。
「あぁ、こっちです、こっち!」私の元に駆け寄ってきて、二人同時に頭を下げながら
「今回の件、誠に申し訳ございません」と謝罪してきた。
私はそれを聞きながら、ふわ~っとした不思議な気持ちで辺りを見回した。
社長がいないのである。
「あれ?・・・今さっき社長さんもいらしてたんですけど・・・」
すると、部長と課長が顔を見合わせて怖い顔をしている。
「本当に社長・・・でしたか?」やや小さな声で部長が聞いてきた。
「えぇ、油まみれの作業着のままで・・・でも・・・アレ??」
「実は今回の事故、機械が制御不能になっているのを社長が止めようとして巻き込まれまして・・・先ほど病院から亡くなったと知らせを受けたばかりでして・・・」
あぁ、そうなのか・・・責任感の強いオヤジさんだったから・・・
私は納得した。
リアルに怖かったです