非ずの間
投稿者:マチノスケ (16)
長編
2025/01/02
11:25
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──消えていた。
戸がなかった。いや、それどころか何もなかった。
昨日祖母と話した時、たしかに部屋があったはずの場所には。
ざらざらした、黄土色の土壁しかなかった。
「こんな所にいたの、何してんの」
後ろから祖母の声が聞こえた。
いつの間に来たんだろうか。
恐怖で固まっていた私の身体は、操られるように祖母に向き直って。
気がつけば口が勝手に動いて、震える声でこう聞いていた。
「ここって部屋……なかったっけ」
すると、また祖母は昨日のようにキョトンとして。
でも少し薄ら笑いを浮かべたような表情で、こう言った。
「……そんな部屋、最初からないよ」
その後のことは、よく覚えていない。多分そのまま戻って、普通に両親と帰ったんだと思う。あれから祖父母の家には行っていないけど、その後なにか起こることはなかった。両親は相変わらずだし、祖父母も元気にしている。電話とかメールとかの連絡も、普通に取り合っている。でもそのことが却って、あの日の記憶をより一層異様なものにしている。結局……どこまでが本当にあったことなのか、あの部屋はなんだったのか、今でもよく分からないままだ。もしかしたら、全部が白昼夢のようなものだったのかもしれない。記憶が徐々に曖昧になってきて、そんな気さえしてくる。「もうこのことは忘れろ」ということなのだろうか。
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