無理だ。
人の体の構造上それ以上振り返る事は出来ないはずだ。
それ以上振り返れば首の骨は複雑骨折するはずだ。
そう心の中で女に説得したが、そんな願いも虚しく、女の頭は回転をやめない。
回転速度が急にガクッと加速する。
遠心力に負けて黒髪がファサッと宙に舞う。
子供の頃、力任せに手遊びして首のパーツをへし折ってしまった可動式の仮面ライダー人形を思い出した。
そっくりだった、あれに。
目が、合う。
それは、生きている人間の顔ではなかった。
限界まで目を見開き、口元はニィッと笑っている。
肌に血の気はなく真っ白だ。
限界まで開いた目の中には何も無い。
黒い渦があるだけだった。
おち窪んだ、本来眼球のあるべき穴からは黒い液体がトロトロと流れている。
涙を流すように。
それでも、俺を見ているという事だけは分かってしまう。
どうしよう。
漏らしそうだ。
女はそんな俺を見て嬉しそうに口を開くとなにか喋ろうとした。
そこで限界を迎えた。
俺は絶叫した。
バスの運転手はうおっっと俺の声に驚いているようだった。
俺は全速力でバスの降車扉へ駆け走りバスから飛び降りた。
着地の事なんて考えてなかったせいか扉の外ですっ転んだ、多分どこか擦りむいてる。
でもあの女と同じ空間に居続けるよりはマシだった。
運転手が慌てて「お客さーん、お駄賃!」と追いかけてきた、その後ろにはあの女。
座席から立ち上がるとゆっくりと運転手の後ろに続いてバスを降りようとしている。
顔は反対側を向いたまま、今度は後頭部をこちらへ向けている。
まさか追ってくると思ってなかった俺はポケットに入っていた財布ごとバス車内に投げつけた。
























えっ、最後びっくりした
「床に落ちた何か」てなんだったの?