運転手の額にクリーンヒットする、申し訳ない。
俺は足を奮い立たせて必死に逃げた、寝過ごしてたどり着いた土地だ、道を知ってる訳もなくどこに続いているかも分からない暗い路地をひた走る。
やがて体力に限界を迎え知らない家の壁にもたれ掛かる、肩で息をしながら自分の走ってきた道を見やると誰もいない。
さすがに俺の足には着いて来れなかったようだ。
結局その日は携帯で電話して母親に迎えに来てもらう運びとなった、財布がないのではどうやっても自力では帰れない。
「あんた、なんでこんな所にいるのよ」と急な送り迎えを強いられた母がコトコトと小言を沸かせながら軽4のハンドルを握っている。
俺はというとそんな小言なんて頭には入らず後部座席に膝を立ててひたすら車の後ろを見張っていた、あの女が着いてきているような気がしたからだ。
家に帰ると「最近物騒だからお母さん出たらチェーンかけてね」と言って母さんは夜勤へ出かけた。
仕事前だったのに迎えに来てくれたのかと思うと母の愛を感じ、心の緊張が少しだけ緩んだ。
そのまま俺は母さんを見送ってチェーンをかけると、すぐさま自分のベッドへダイブした。
疲れた。
怖い夢を見た気がする。
目を開けるとまだ部屋は暗い。
ヘッドボードの電子時計を叩くとam2時と表示された。
昨日の事は夢だったのか。
擦りむいた膝の痛みに頭を掻きながら俺はトイレを済ませた。
水を流し廊下に出るとゴツ、ゴツ、と鈍い音が奥から聞こえてきた。
なんだろう。
いつもだったらいちいち電気なんて付けないで暗い中で全てを済ませる俺だが、今日ばかりは壁のスイッチに手が伸びた。
これが良くなかった。
廊下がフッと明るくなる。
突き当たりの窓の外になにか見える。
あれは、影か?
窓の向こう側に見えるソレを電気の明るさに徐々に慣れ始めた目が冷静に捉え始める。
黒い大きな影、その中央には白い丸、白い丸の中には黒い丸が2つ、その黒い2つの丸から黒いなにかが下に垂れて、その下にはやけに細い三日月。
一気に頭が冴え全身の毛が逆立つ。
ついて、きてたのか。
バスの中で会った女だ。
女は窓の外から額を何度も窓にうちつけてこちらを見つめている。

























えっ、最後びっくりした
「床に落ちた何か」てなんだったの?