由紀子の箱
投稿者:えんたーさんどまん (2)
「自宅」の場所へは、道路状況を加味したとしても、おおよそ車で2時間ほどのようだ。
その間に、俺は八潮に許可を得て、ヤツの霊能力や今までのこと広町に教えた。
広町は、突然のカミングアウトに多少面食らったようだったが、少し考えたあと、「…実は、リサもたまに言うんだよな。変な声がしたとか、嫌な感じがするとか。今回の車のことも、最初はそういうリサの妄言…みたいに最初は思ってたんだよ。でも、実際に俺自身でも体験するようになってさ。ちょっと前の俺なら、バカにしてたかも知れないけど…。…今は信じるよ」と言ってくれた。
「…それで…。やっぱりいるかな…?この車」ハンドルを硬く握り、意を決したように聞く広町。
八潮はバックミラーを見てから答えた。「…中学生くらいの女の子がラゲッジスペースにいるな。いるだけで、悪意は感じないけど」
中学生くらいの女の子…?
「なあ、それってあのグーグルの…」
俺が言い終わらないうちに「少し違うな」と、八潮に遮られる。
「あっちは確実に生きてる人間だけど、こっちのは死霊で、それも色が薄いから随分前に亡くなってる。少なくとも半世紀は前だろうな」
たしかにそれだと、2年前に生きている人間として撮られたあの子ではない…ということになるのか。
「でも、雰囲気は似てる…」
そう呟いた八潮の顔はどこか翳っていた。
ナビの案内で目的地付近に着く頃には、既に日は落ちかけており、少し肌寒い秋の風が窓から入ってきていた。
あと100メートルほどで竹林の前に到着する…というときに、「ここらで一旦止めよう」と八潮が広町に指示を出す。
道路は割と広めだったので、路肩に寄せて路駐することができた。
「悪いけど、ラゲッジ開けさせてもらうよ」
車が止まるなり、八潮は困惑する広町と俺を尻目に、颯爽と車から降りてトランクを物色しだした。俺たちも八潮に続いて降り、手伝うことに。
ラゲッジスペースにはキャンプ道具がいくつか入っていたが、それらを退かして、迷うことなく底板を開ける八潮。
スマホのライトで奥を照らし、すぐに「これだ」と言って何かを取り出した。
「なにそれ!?」俺は思わず声を上げてしまった。
それは、およそ7〜8cm四方の箱で、劣化した布ガムテープでグルグルに巻かれている。
どこからどう見ても「曰く付き」だ。
自分の車からおかしなものが出てしまった広町は完全にドン引きしているが、俺はどうしても好奇心が抑えられず、興奮して「ちょ、ちょ、貸して!見せて!?」と、小学生のようにはしゃいでしまった。
「ダメだ。お前開けるだろ」と、八潮。
完全に信用されていない。
開けないから!という約束で少し持たせてもらう。
箱は、思った以上に軽い。
振ってみると、中からはカラカラ…と、乾いた何かが動く音がする。
少なくとも中は空洞になっていて、その中に何かが入っているということはわかった。
観察しながら、写真を撮ろうとスマホを出したその時、巻かれたガムテープに消えかかった文字があることに気がつく。
「由紀子の…」と書かれていたような気がしたが、しっかり読み取る前に八潮にひったくられてしまった。
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