由紀子の箱
投稿者:えんたーさんどまん (2)
そのまま八潮は、キャンプ道具の中からシャベルを持ち出し、箱とシャベルを持って竹林へと早足で向かう。
それに続く俺と広町。
スタスタと何の躊躇もなく竹林へ分け入り、中央あたりまでくると、八潮は「ここら辺か」…と独り言ちながら、シャベルで穴を掘り始めた。
一連の流れをただ呆然と見守っていた俺たちだったが、広町が「品川…」と小さく俺を呼んだ。
広町が指さす先には、どうやら建物の基礎であろう、苔むした梁があった。
ここに、家は…「自宅」はあったのだ。
ただ、竹林がここまで茂っているからには、なくなってからかなりの年月が経っているようだった。
よく見ればそこかしこに、家があったであろう形跡が見て取れた。
粉々になったガラスの破片、腐食した何かの木枠、金属の欠片…。
そのほとんどが既に自然と一体化していたが、たしかにここに人の営みがあったことを教えてくれていた。
「よし…」
八潮の声でハッと我に帰る。
八潮の傍らにあった箱は既になく、掘った穴も塞がっていた。
「これでもう大丈夫だろ。帰るぞ」
手の土を払いながら、淡々と言う八潮。
「へ…?あの箱は?埋めたの?」
車を止めてから今までのことが、衝撃的かつスピーディーすぎてついて行けず、わかりきった質問をすることしかできなかった。
「あれは返した。もう車にあの子はいない」
返した?もういない?
つまり、どういうことだ?箱の中身は?由紀子って誰だ?
相変わらず言葉の足りない八潮に聞きたいことは山程あったが、何から聞いたら良いのかわからない。
そうこうしているうちに、八潮はさっさと車に乗り込んでしまった。
続いて運転席のドアを開けた広町が、何かに驚いて声を上げた。
「臭いが消えてる…!」
確かに、あの変な臭いがきれいさっぱり消えていたのだ。
なんなら、臭い消しのために置いたであろう芳香剤の強めの香りが漂っている。
「元凶がなくなったわけだから、臭いも消えて当然だよ」
八潮は、窓の外…竹林の方を見ながら呟いた。
行きと違い、帰りの車内は明るかった。
道中既に夜の帳は降りていたが、広町は、「夜になると聞こえてくる異音や息遣いが聞こえてこない!」と大喜びで、コンビニに寄った際にはリサちゃんにも喜びの報告を入れるほどだった。
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