夫の影
投稿者:セイスケくん (20)
短編
2024/11/16
11:47
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車に乗り込み、エンジンをかける前に何気なくビルを振り返った。
その瞬間、全身の血の気が引いた。
3階の窓際に、もう一人の夫が立っている。
こちらをじっと見つめるその姿は、明らかに異質だった。
窓の向こうで動かずに立つ彼と、隣に座る夫。一体どちらが本物なのか。
助手席の夫に恐る恐る目を向けると、彼は硬い微笑みを浮かべたまま、ゆっくりとこちらを見返した。
その瞳には光がなく、まるで深い闇を覗き込んでいるようだった。
「どうしたの?」彼の口元だけが動き、声が耳元で響く。
しかし、その声が隣の夫から発せられたものなのか、それともビルに残されたもう一人からのものなのか、もはや判断がつかなかった。
恐怖が頂点に達し、私は車のドアを開けて外に飛び出した。
遠くで警察のサイレンが鳴り響く。振り返ると、車の中には誰もいなかった。
ビルの窓を見上げると、人影は消えている。全てが幻だったのか。しかし、胸に残るこの不安感は消えない。
震える手でスマートフォンを取り出し、夫に電話をかけた。
すると、すぐに彼の声が応答した。
「もしもし、どうしたの?」
「今どこにいるの?」声が震える。
「まだオフィスで仕事してるよ。もう少しかかりそうだ」
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