足止めの術
投稿者:セイスケくん (23)
これは、地方都市に住む中年女性・河原さん(仮名)から聞いた実話である。
彼女には、高校卒業と同時に音信不通となった娘がいた。
娘は地元の大学に進学する予定であったが、ある宗教団体に急接近し、そのまま家を出て行った。
家出後、娘からの連絡は一時的に続いたものの、その内容は次第に奇異なものとなっていった。
「この道こそが真理だ」「母さんたちも目を覚まして」といった言葉は、感情を欠いた機械的な響きを帯びていた。
河原さんは娘の変容に心を痛め、再三会いたいと訴えたが、「今は修行が優先」と淡々と拒絶され、やがて連絡は完全に途絶えた。
娘が家を出た契機は、その宗教団体の「救済活動」に参加したことであった。
活動は一見すると地域ボランティアのようであったが、内実は信者に過度な負担を強いるもので、食事や睡眠を削りながら長時間労働を強制されるなど、極めて過酷な内容だった。
金銭的な寄付も求められ、信者は自らの生活を犠牲にして教団に尽くすことを美徳とされた。
娘は当初、その活動に対して戸惑いを抱いていたものの、仲間との一体感や「自分が社会に役立っている」という充実感に徐々に心を奪われていった。
娘は家庭とは異なる“新しい家族”に強い依存を抱き、ここが真の居場所であると信じるようになった。
娘は当初、その活動に対して戸惑いを抱いていたものの、仲間との一体感や「自分が社会に役立っている」という充実感に徐々に心を奪われていった。
娘は家庭とは異なる“新しい家族”に強い依存を抱き、ここが真の居場所であると信じるようになった。
河原さんの不安はやがて恐怖に変わった。
知人を通じて調査したところ、娘の所属する宗教団体は地域社会においても危険視されており、信者から金銭を搾取し、時には不可解な事故が発生しているという噂があった。
例えば、ある信者が団体の合宿中に謎の転落事故で命を落とし、事故の原因が曖昧なまま終わったという報告があった。
また、別の信者は過労によって突然倒れたが、教団側は適切な医療措置を取らなかったという話も伝えられていた。
河原さんは夫や友人と重ねて相談を行い、警察にも助けを求めたが、「本人の意思がある限り、介入は困難」と冷たくあしらわれた。
心の支えを失いかけた河原さんに、一人の友人が「霊能者」に頼ることを勧めたのは、そのような状況の中であった。
河原さんは霊能者の存在に対して半信半疑であったが、娘を取り戻すためには何かにすがりたいという思いが彼女を突き動かしていた。
それまでに何度も対策を講じてきたが、いずれも成果を上げることはなく、最後の頼みの綱として霊能者に頼ることを決意したのである。
夫は心配しながらも河原さんの決断を尊重し、友人たちも彼女を陰で支え続けた。
霊能者の住居は、街外れの寂れた路地に静かに建っていた。
古びた玄関をくぐると、室内は異空間のような雰囲気を漂わせていた。
室内はひんやりとして、冷たい空気が肌を刺すようだった。
また、どこからか微かに水の滴る音が聞こえ、河原さんの緊張感を一層高めた。
仏壇を取り囲む無数の護符や、甘く重たい香りが漂う線香の煙。
河原さんが恐る恐る相談を切り出すと、霊能者はじっと耳を傾け、冷静な口調で言葉を発した。
「娘さんを戻したいのならば、道を開かなければなりません。
ただし、そのためには“足止め”が必要です」
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