子供が大人になるまでは

オレは花音が20才の時に死ぬことが決定したし、他の家族も、ずっとお前を見守れるか分からない
だから花音が自分で身を守れるようにと、合気道を習わせたんだ
また頭が良ければ騙されにくいだろうと、脳に刺激を与えるというピアノとソロバンもやらせた

オレの子供の中で習い事ができたのは、お前だけだ
お金はオレたち夫婦の稼ぎだけではなく、息子たちも出してくれた

彼らは成績優秀なのに、大学まで行かせてあげられなかった
だがお前には行かせた
それは学があった方が、騙そうとする方も騙しにくいと思ったからだ
お前は少し成績が足りなかったが、息子たちの援助があったからこそ、家庭教師もつけてもらえて、一流といわれるレベルの高い大学に入れたんだ
お兄ちゃんたちに感謝だね

ところでお前が生まれてすぐ、蝶子の墓参りに行ったんだ

そしてオレは、蝶子と元義父に懺悔した
娘が生まれて自分の過去の行いを心底悔いている、もうこの娘で最後の子供とするから、後20年だけ、待っててくれと告げたんだよ

その夜、夢に2人が現れた
蝶子も元義父も神妙な面持ちで、『分かった』と言ってくれた
だから三彦が20才の時には、幽霊は出てこなかったんだ

以上が、お前が20才の誕生日になったら話すと言った、オレの身に起きた話だ

蝶子の命日は、実は来月のこの日なんだ
オレの命は後1ヶ月、残りの人生はゆっくりと家で過ごそうと思っているんだ

パパの長い話を、黙って聞いてくれて有難うな」

※

オレの話を聞き終えた花音は、複雑な顔をしていた

……無理もない

「教えてくれて有難う、パパ。情報が多過ぎて、少しの間1人で考えさせて」
と言ってリビングを出て行った

そうだよな、蝶子の話は初耳だろうし、非現実的な幽霊話もあったし、まずは頭の中を整理したいよな

とにかく花音が幸せなら、オレはそれで良いのだ

※※※

私は1人で、先程聞いた父の話を思い返していた
まさか結婚を3回もしていたとは知らなかった
しかもそのうち2回は騙すやり方で……これはショックだ
祖父の死に方もショックだ
ところで本当に幽霊はいるのだろうか？
そして来月、その幽霊にパパは殺されるのだろうか？