ピンポーン。
室内に響くチャイムの音。のんびりしたランチタイムを中断し玄関へ急ぐ。
「引っ越しのご挨拶に伺いました。」
半開きのドアから覗き込むようにして顔色の悪い女が声を掛けた。
今時珍しいなと思いつつ、半開きのドアを一気に開けてこちらも会釈。
「ご丁寧にありがとうございます。」
言い終わる前に小さな包みを押し付けるように手渡して、女は足早に去って行く。
これが新しい隣人かと思うと薄気味悪さしかなかった。
血の気のない肌、生気のない目。何故か半開きの口元は薄笑いを浮かべていた。
部屋に戻りとりあえず包みを開けると、ごく普通の白いタオルが1つ。
いらないなーと思った矢先、またチャイムが鳴り響く。
あの女が立っていた。
「さっきの間違えたので…返して下さい。」
「え、でも開けてしまったので。」
「間違えたので返して下さい。返して下さい。返して下さい。渡したかったのはこっちです。」
「…じゃあ、これ。」
仕方なく言われるがままタオルを渡し、代わりに新たな箱を受け取った。
次の瞬間、
ばりばりばりばりばり。ばりばりばりばり。
目の前で女は不揃いの薄汚れた爪で自分の頬を掻き毟り始めた。
ばりばりばりばり。ばりばりばり。
「っ!!」
気味の悪さに耐え切れず、勢いよくドアを閉めて施錠した。
「ねえーっ、ねぇえぇぇーっ」
バンバン、ドンドンと荒々しくドアを叩く女。
ノブがガチャガチャと乱雑な音を立てて揺れる。
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