砂場の底
投稿者:綿貫 一 (31)
「アンタたちー、なにやってるのー?」
その時、ちょうど兄弟の母親が声をかけてきた。
タケシが興奮しながら立ち上がり、母親にこのことを告げようとした瞬間、
「なんでもなーい!」
マモルが先に声を上げた。
ホノカが、思わずマモルの顔を見る。
マモルは黙ってホノカを見返す。
風が吹き、公園の立ち木の葉がざわめいた。
ややあって、少女は無言でうなづいた。
そんな二人を見て、タケシも言葉を発せなくなってしまった。
三人は穴を埋め返すことにした。
穴の底の男の顔の上に、どさ、どさ、と砂をかけていく。
男は砂をかけられる度に、うっとうしそうに顔をゆがめ、パチパチとまばたきをした。
そして、その唇は文句を言いたそうにモゴモゴとうごめいた。
しかし、それらはすべて、ただの目の錯覚だった。
男の顔は、砂の下にすぐに見えなくなった。
砂場をすっかり元通りにすると、最後に目印の木の枝を差して、彼らはその日、家路についた。
………
………
………
ホノカを家に送ったタケシとマモル、そして兄弟の母親は、帰り道の途中でコンビニに立ち寄っていた。
外はすでに暗くなっていたが、店内はギラギラとした照明でまぶしいくらい明るい。
母親がレジに並んでいる間に、タケシはマモルに話しかけた。
「なあ、アイツ、誰なんだ?」
お菓子を眺めていたマモルがゆっくり振り返る。
「アイツ?」
「アイツだよ!砂の中にいたアイツは誰なんだよ。
ホノカも、マモルも知ってる奴なのかよ」
「知らないよ。知らない人だよ、僕はね。
でも……。
ねえタケシ、怖かったりする?」
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