ごめんで済むなら呪いはいらない
投稿者:Mine (24)
1番大きな木というのはブランコの隣のアレだろうと当たりをつけ、用意してきたスコップで早速根元周辺を掘り返し始めて30分程、ようやく見つけました。
手のひらに収まる大きさのそれは辛うじて緑色と分かるほどに色褪せ、汚れています。
開けないで、とカオルに言われたので土を払ってそのままカバンにしまい、家に帰りました。
カオルが夢に現れたのはそれから4日後でした。
私は例の巾着袋をみつけた事を彼女に報告しました。
「ありがとうナツミ。ごめんね、こんな事頼んで。大変だったでしょ。」
「全然いいけど…なんなの?あれ。」
そう尋ねるとカオルはスッと目を逸らし、言いにくそうに口にしました。
「覚えてるよね。 ……タチバナのこと。」
「タチバナってタチバナユミのこと?」
こくりとカオルは頷きます。
タチバナはカオルをいじめていたグループの中心人物だった女子生徒で、私とは違う高校に進学しました。
夢でカオルに会うようになってから今まで一度もいじめについての話題はタブーとして暗黙の了解のようにお互い口にはしませんでした。
それなのにまさか彼女の口からタチバナの名前が出るなんて、晴天の霹靂とはこの事でしょう。
「前に言ったよね。狭間の場所に囚われているって。それは大きな心残りがあってそれに縛り付けられてるせいでさ。……あのタチバナが今も何食わぬ顔で生きてるのが悔しくて、許せなくて、だからどうにかしたくて…!」
普段感情を表に出さないカオルが声を震わせてポロポロと涙をこぼしました。
「せめてアイツだけにでも呪いをかけたいの……。あの巾着袋はその為に使う道具で。私死ぬ前にあの公園で呪いを実行しようとしたんだ。どうせ死ぬならアイツに呪いをかけてからにしようって。でもその時は怖気ついて結局やめにして、巾着袋を埋めて帰っちゃった。その後もイジメは変わらず続いて、どうしようもなくて、私は一人で命を絶つしかなくて……。」
そこまで聞いて私はピンときました。
「もしかして、カオルの代わりに私がタチバナに呪いをかけて欲しいってこと?」
「うん……今の私では現世に殆ど干渉できないし、呪いは生きた人間がやらないと無意味だから……だからお願い。こんなこと他の誰にも頼めない。未練があるままずっと成仏できないのはすごく……つらいよ。」
嗚咽を漏らしながら言葉を吐き出す彼女の姿はあまりに切実でした。
あの優しいカオルが誰かを呪いたいなんて口にするなんて、想像を絶する程に追い詰められているのでしょう。
カオルの首元には紫の索条痕がまだ痛々しく残っています。
それをみると胸の奥から何かが込み上げてきました。
「…わかった。やるよ。私が。」
決然と私は言いました。
カオルをこれ以上苦しませたくなくて。
それに…タチバナを許せないのは私も同じです。
「………ありがとう。ナツミ。」
カオルは涙に歪んだ顔を安堵の表情に綻ばせました。
それから私は彼女から呪いの手順の説明を受けました。
主犯格は許せないが、見て見ぬふりされ助けてくれ無かった事の方残酷な事なのですね。
いじめた生徒は、自殺に追い込んでしまったと自覚すら持たず、のうのうと生きている人達がいるのも現実です。
いじめの無い世の中になればと考えさせられる内容でした。
怖かったです。
人間が一番怖いです
いじめをする人間は悪いけどいじめられる人間も悪いみたいな事をいう風潮があるかぎり、いじめはなくならない。
巾着袋が出てきた時点で、何となくオチが見えましたが、この手の話、好きです。
いや、これ、やはりカオルさん、呪う相手の順位、間違っています。
親友のナツミさんだって、自分を助ける手段を模索し、悩み抜いたんだし。
下手に間に入ったら、自分が標的になる危険があるから、傍観せざるを得なかったのは、ギリギリの決断だったわけです。
そのことは、ナツミさんだって、わかっていたでしょ?
カオルさんが、ナツミさんの立場だったら、やはり、同じ行動を取ったのではないでしょうか?
むしろ、カオルさん、「ナツミさんが、悩んでいたの知っていた。私のために、悩ませてしまって、ごめんなさい。それが言いたくて、夢に出て来た。」
そんなストーリーだったら良かったのにと、思いました。
再度、強調します。
真に憎むべきは、タチバナさんをトップとするイジメの実行グループのメンバーたち。
カオルさん、そこは、しっかり、認識してほしかったです。
蛇足ですが。
今、ほとんどの市町村には、いじめの被害を受けている生徒のための、駆け込み寺のような公機関が設置されています。
朝、登校するフリして家を出て、そこに行けば、保護してもらえます。
さらに、極端なこと言えば。
市町村により、その機関の権限には差がありますが。
例えば、カオルさんの場合、その公機関で、以降、授業を受け、そこから高校も受験でき、義務教育を卒業したことにもしてもらえるなんて可能性もありました。
そういうことを、知っておくことが、大切だと思いました。
これ、真の敵が誰か?、復讐するならするで、その復讐相手はまず誰なのか?の正しい判断がつかない、ある意味愚かな話なのでは?
カオルだって、ナツミの立場になれば、果たして、「自分がターゲットにされてもいいから、親友を助ける」という行動をとれたかどうか?
悩み抜いた結果、ギリギリの判断で、傍観を決め込んだ可能性も高かったのでは?
カオリは確かにいじめの被害者ですが、ナツミにとっては・・・
「ナツミが悩んでいたの、そして私を助けられなくて後悔しているの知ってるよ。私のことで苦しませて、ごめんね」というスタンスで、夢の中に表れてくれるくらいの親友ではなかったのですね・・